先日、診療中に口腔悪習癖(こうくうあくしゅうへき)をお持ちで矯正治療は必要となってしまった患者様にお会いしました。そこで今回は口腔悪習癖とはどのようなものなのか説明していきます。
口腔悪習癖とは、口腔内で無意識または習慣的に行われる不適切な行動や癖を指し、これらは口腔の健康や発育に悪影響を与えることがあります。悪習癖が長期間続くと、歯並びや顎の発育に悪影響を及ぼし、場合によっては治療が必要になることもあります。以下では、代表的な口腔悪習癖について簡単に解説します。
1. 指しゃぶり
指しゃぶりは、特に幼児や乳児に見られる口腔習慣で、指や手を口に入れて吸う行動を指します。これは赤ちゃんが生まれたときから持っている自然な行動で、安心感を得たり、リラックスしたりするために行うことが多いです。指しゃぶりは、一般的には生理的な行動として認められており、多くの赤ちゃんが発達過程の中で行います。しかし、長期的に続くと、口腔内や歯の発育に悪影響を及ぼすことがあります。
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影響:
指しゃぶりが続くと、前歯が出っ歯のようになったり、上顎と下顎の歯のかみ合わせが悪くなることがあります。また、口腔内の筋肉の発達にも影響を与える可能性があります。 -
対策:
指しゃぶりが3歳を過ぎても続く場合、適切な方法で習慣を改善することが大切です。例えば、注意を引くために指に不快なものを塗る、指しゃぶりをやめる理由を説明する、心理的な原因(不安やストレス)を解消するなどの方法が考えられます。
2. 爪噛み
爪噛み(爪かみ)は、爪を無意識または習慣的に噛んでしまう行動で、特に子供や若者に多く見られますが、大人でも見られることがあります。この習慣はストレス、緊張、不安、退屈などによって引き起こされることが多く、無意識に行われることが一般的です。爪噛みは見た目にも問題があり、爪や周囲の皮膚に傷をつけることがあるほか、口腔内や歯に悪影響を及ぼすこともあります。
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影響:
爪を噛むことで、歯や歯茎に傷がつくことがあり、歯並びが乱れる原因にもなります。また、歯を噛む際に過剰な力がかかり、歯の摩耗や顎に負担がかかることがあります。 -
対策:
爪噛みはストレスや不安が原因であることが多いため、リラクゼーションやカウンセリングが有効です。また、爪に不快感を与えるための対策を講じることもあります。
3. 口呼吸
口呼吸(こうこきゅう)とは、通常鼻から行う呼吸を、口を使って行うことを指します。私たちの体は、鼻で呼吸することを前提に設計されていますが、鼻の通りが悪いときや、習慣的に口で呼吸することがあります。口呼吸は、一時的な状況に限らず、長期間続くと健康にさまざまな影響を与える可能性があります。
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影響:
口呼吸が長期間続くと、歯並びが乱れることがあります。上顎が発達せず、顔貌が変わったり、歯が上に突き出ることがあります。また、口が乾燥しやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。 -
対策:
鼻づまりが原因で口呼吸をしている場合は、耳鼻科での治療が有効です。呼吸の仕方に問題がある場合は、口呼吸を直すための訓練を行うことが推奨されます。
4. 舌癖(舌を押す)
舌癖(ぜつへき)とは、舌が正常な位置や使い方から逸脱し、習慣的に不適切な動きや位置に置かれることを指します。具体的には、舌が口腔内で不自然な場所にあったり、特定の動作(例えば、舌を前に突き出す、上顎に押しつけるなど)を繰り返したりする状態です。舌癖は子どもに多く見られますが、大人でも改善されずに残ることがあります。
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影響:
舌が前歯に強く押し付けられると、歯並びが乱れる原因になります。特に、上顎の前歯が前に出る「開咬(かいこう)」という状態を引き起こすことがあります。また、顎の発育にも影響を及ぼします。 -
対策:
舌癖を直すためには、舌の位置を正しく保つための訓練が必要です。矯正治療と併用して舌の使い方を改善する方法があります。
5. 歯ぎしり(ブラキシズム)
歯ぎしり(ブラキシズム)とは、無意識のうちに歯を強く食いしばったり、歯を擦り合わせたりする習慣的な行動を指します。これは主に睡眠中や、ストレスや緊張を感じているときに発生することが多いですが、日中にも起こることがあります。歯ぎしりは、歯や顎、顔の筋肉にさまざまな影響を与える可能性があり、放置すると健康に悪影響を及ぼすことがあります。
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影響:
歯ぎしりは歯のエナメル質をすり減らし、歯の摩耗を引き起こすことがあります。また、顎関節に負担がかかり、顎関節症を引き起こすことがあります。さらに、歯の根元や歯茎にダメージを与えることがあります。 -
対策:
歯ぎしりを防ぐためには、リラクゼーションやストレス管理が重要です。歯科医師は、マウスガードを使用して歯ぎしりの影響を軽減することを提案することがあります。
6. 頬杖(ほおづえ)、偏咀嚼癖
頬杖(ほおづえ)とは、座っているときや立っているときに片肘を机や手すりなどに置き、その手で自分の顔や顎を支える姿勢を指します。日常生活でよく見られる姿勢の一つですが、この姿勢が長時間続くと体にさまざまな悪影響を与える可能性があります。
偏咀嚼癖(へんそしゃくへき)とは、食事中に片側の歯や顎だけで噛んでしまう習慣的な行動のことです。通常、健康な場合、食物を噛むときは左右の顎をバランスよく使って噛むことが推奨されますが、偏咀嚼癖を持つ人は、無意識のうちに片側で噛むことが多くなり、体にさまざまな影響を与える可能性があります。
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影響:
頬杖をつくことで、顔の筋肉に偏った負荷がかかり、顎の歪みや不均衡が生じることがあります。
また、偏咀嚼癖があることで、歯の摩耗が片側に偏り、歯並びに悪影響を与えることがあります。 -
対策:
姿勢を改善し、頬杖や偏咀嚼癖を避ける意識を持つことが大切です。
悪習癖についてはなかなか簡単に直らない事が多いですが、時間をかけてしっかりと修正すると10年後、20年後に口腔内の様々な問題が起こりにくくなります。今から少しずつ直していきましょう!