こんにちは、名古屋市瑞穂区の桜山駅から徒歩6分にあります、いわむら歯科院長の岩村です。
今回は口臭外来をしているとよく聞かれる質問の一つでもあります、「口臭対策の歯磨き粉」についてです。
口臭対策の歯磨き粉に含まれている代表的な口臭に有効とされている成分について紹介していきます。
なお、当院ではいまのところ口臭対策の歯磨き粉は販売しておりません。その記事を参考にして歯磨き粉を探して頂ければと思います。
また、今回は生理的口臭に限ったものだけです。病的口臭に関しては、歯科医院あるいは内科での治療が最優先です!
<歯磨き粉に含まれる口臭に有効な成分>
①殺菌成分
口臭対策に有効な殺菌成分には、口腔内の細菌を抑制して口臭の原因を減らす働きがあります。以下に代表的な殺菌成分を紹介します。
1. クロルヘキシジン(Chlorhexidine)
効果:広範囲の細菌に強力な殺菌・静菌作用。
特徴:歯周病菌や虫歯菌に効果が高く、長時間効果が持続。
注意点:長期間の使用で着色や味覚異常のリスクがある。
2. CPC(セチルピリジニウム塩化物)
効果:細菌の細胞膜を破壊し、殺菌する。
特徴:多くの市販のマウスウォッシュや歯磨き粉に使用されている。
メリット:刺激が少なく、使いやすい。
3. トリクロサン(Triclosan)
効果:細菌の脂肪酸合成を阻害して殺菌。
特徴:一部の国では使用制限があるため、日本ではあまり一般的ではない。
4. ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)
効果:洗浄力により、細菌の膜を壊す働きがある。
特徴:主に発泡剤だが、殺菌補助的な役割を持つ。
②β-シクロデキストリン
β-シクロデキストリンは、トウモロコシ由来のでんぷんから作られる天然の環状オリゴ糖です。ドーナツ型の分子構造をしており、
外側は親水性(水となじみやすい)、内側は疎水性(脂とよくなじむ)という特徴を持っています。この構造が、口臭成分の「包接(ほうせつ)」という働きに関係します。
主なメカニズムとしては
1. 口臭成分を物理的に包み込んで除去する(包接作用)
口臭の主な原因は、揮発性硫黄化合物(VSCs)です。:これらは疎水性の分子であるため、β-シクロデキストリンの内側(疎水性の空洞)に取り込まれて安定化されることで、空気中へ拡散するのを防ぎます。つまり、ニオイそのものを封じ込めるわけです。例えるなら、におい分子を小さな容器に閉じ込めて、においを外に出さなくするイメージです。
2. ニオイ成分の発生を抑える効果(間接的作用)
β-シクロデキストリンは直接的な殺菌作用はありませんが、以下のような間接的な口臭対策効果もあります
・脂質やタンパク質由来のニオイのもとを吸着
・唾液に含まれるにおい成分の除去を補助
・他の殺菌成分との相乗効果(例:亜鉛やCPCなどと併用)
③塩化亜鉛
塩化亜鉛(Zinc Chloride)は、無色透明な塩で、水に溶けると亜鉛イオン(Zn²⁺)として働きます。この亜鉛イオンが口臭の原因物質と化学反応を起こすことで、においの発生を抑える効果を発揮します。
塩化亜鉛が口臭を抑えるメカニズムは以下の2つが挙げられます
① VSCs(揮発性硫黄化合物)を化学的に中和
塩化亜鉛は、VSCs(特に硫化水素やメチルメルカプタン)と直接反応して、無臭の非揮発性化合物に変化させることができます。
化学反応の例:
亜鉛イオン(Zn²⁺) + 硫化水素(H₂S)→ 硫化亜鉛(ZnS)(=水に溶けない白色固体、無臭)
この反応により、においの原因物質が空気中に放出される前に抑えられるのです。
② 細菌の活動を抑制(静菌作用)
塩化亜鉛には軽度の静菌作用(細菌の増殖抑制)もあります。これにより、VSCs を作り出す嫌気性菌(舌や歯周ポケットに多く存在)の活動を間接的に抑える効果があります。
④乳酸菌
乳酸菌は、糖を分解して乳酸を生成する善玉菌の総称で、腸内や口腔内に生息し、健康を保つ上で重要な役割を担っています。最近では、「口内フローラ(口腔内の細菌バランス)」を整えることで、口臭対策にも有効であることが注目されています。
なぜ乳酸菌が口臭に効くのかですが、主に以下の3つのメカニズムが挙げられます。
① 口臭の原因菌の増殖を抑える(抗菌作用)
口臭の主な原因は、舌や歯周ポケットにいる嫌気性菌(酸素が少ない場所を好む細菌)が出す揮発性硫黄化合物(VSCs)です。
乳酸菌は
酸を作ってpHを下げる➡酸素を消費しない環境を嫌う嫌気性菌の生育を妨げる➡一部の乳酸菌はバクテリオシン(抗菌ペプチド)を作り、口臭菌を直接抑制
という経路をたどり、VSCsの発生源である悪玉菌が減少し、においの元が減るのだと考えられています。
② 口腔内フローラのバランスを整える(プロバイオティクス効果)
口の中にも腸内と同様に「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」が存在しています。乳酸菌を摂取することで、善玉菌の割合を増やし、悪玉菌の定着や増殖を防ぐ「バランスの調整」が期待されます。特にL. salivarius(ラクトバチルス・サリバリウス)など、口腔内に生息する乳酸菌は有望であり、舌苔や歯周ポケットの有害細菌の抑制に役立つと考えられています。
③ 舌苔や歯周病による口臭を間接的に改善
舌苔(舌の白い汚れ)や歯周病は、強い口臭の原因になります。乳酸菌には舌苔の原因菌(Fusobacterium、Prevotella など)を減らす作用や炎症を抑えることで歯周病の進行を抑制する効果が報告されており、慢性的な口臭の改善にもつながると考えられています。
⑤ゼオライト
ゼオライト(Zeolite)は、火山灰などからできる天然の鉱物で、無数の微細な孔(穴)を持った多孔質構造をしています。この構造が、吸着(吸い取る)、イオン交換(有害物質と無害な成分を交換)、脱臭・浄化作用などの働きを可能にし、口臭対策に役立つとされています。
ゼオライトが口臭に効くは以下の3つのメカニズムだと考えられています。
① 口臭の原因物質を吸着して除去
口臭の主な原因である揮発性硫黄化合物(VSCs)は分子が小さく、ゼオライトの微細な孔に吸着されやすい性質があります。 吸着されたガスは、空気中に拡散されなくなるため、においの発生を抑えることができます。
② アンモニア臭などの成分も除去
ゼオライトは、アンモニアや有機窒素化合物(生ごみ臭・加齢臭のようなにおい)にも吸着性を持つため、唾液中に含まれるアンモニア由来のにおいや胃腸の不調に由来する口臭ガスにも効果があります
③ 口腔内のpHや細菌環境を整える(間接的効果)
ゼオライトはイオン交換作用によって、口腔内の酸性・アルカリ性のバランス(pH)を安定させます。これにより、酸性環境を好む口臭原因菌(嫌気性菌)の増殖を抑える効果も期待されます。ゼオライト自体に強い殺菌力はありませんが、「菌が増えにくい環境づくり」に貢献します。
⑥タンパク質分解酵素
「揮発性硫黄化合物(VSC)は舌の表面や口腔内に残ったタンパク質(食べかす・剥がれた粘膜・細菌の死骸など)を、嫌気性細菌が分解して発生します。タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)は、タンパク質を分解して小さなペプチドやアミノ酸にする酵素です。これにより、以下のような口臭対策効果が期待できます。
1. 臭いの「元」を分解して除去
酵素が口腔内のタンパク質汚れ(食べかす、舌苔など)を分解することで、細菌のエサが減少し、揮発性硫黄化合物の発生自体を抑えることができます。
2. 舌苔の除去を助ける
舌の表面に溜まる「舌苔(ぜったい)」は、口臭の大きな原因の一つです。舌苔は主にタンパク質で構成されているため、タンパク質分解酵素は舌苔の分解・除去にも効果的です。
3. 物理的なブラッシングだけでは落としきれない汚れを分解
歯磨きや舌ブラシでは落としきれない微細なタンパク質汚れにも酵素が作用し、より化学的にクリーンな口腔環境を保つことができます。
⑦なた豆
なた豆は、マメ科の植物で、種子が大きく刀のように湾曲したサヤを持つことから「刀豆(なたまめ)」と呼ばれます。日本や中国では古くから民間薬や健康茶として親しまれており、最近では口臭対策成分としても注目されています。
口臭の原因に対して、なた豆は以下の4つの作用を通してアプローチします
①【抗炎症作用】= 歯周病・膿の臭いを抑える
なた豆には「コンカナバリンA(Concanavalin A)」という成分が含まれており、抗炎症作用・免疫調整作用があるとされています。歯周病や歯肉炎による膿(うみ)や出血の臭いを和らげる、口腔内の炎症を鎮め、細菌の繁殖を抑制するなどの作用があり、歯周病が原因の口臭(腐ったにおい)に対して有効です。
②【膿の排出促進作用】= 蓄膿症などによる口臭対策
なた豆は昔から「膿取り豆」とも呼ばれ、蓄膿症(副鼻腔炎)や扁桃炎などの膿性疾患に効くとされてきました。鼻づまりや副鼻腔にたまった膿が喉に流れ込むことで、悪臭が口から出る「後鼻漏(こうびろう)」型口臭になりますが、なた豆には、膿の排出を促す作用があるとされ、この体内の根本原因に働きかけます。蓄膿症・後鼻漏が原因の口臭に対して有効です。
③【整腸作用】= 胃腸由来の口臭にアプローチ
なた豆茶やサプリには、食物繊維やアミノ酸が豊富に含まれ、腸内環境を整える働きもあります。腸内の悪玉菌が増えると、アンモニアやインドールなどの臭気成分が発生し、血流を通じて肺から排出 され、口臭になります。整腸作用により、体内発生型の口臭を軽減します。胃腸が原因の内臓口臭に対してもサポート効果があります。
④【抗菌・消臭作用】= 口腔内の臭いを直接抑える
なた豆には、ポリフェノールやアミノ酸が含まれ、口腔内の細菌バランスを整える作用もあります。舌苔や歯垢中の嫌気性菌の繁殖を抑え、硫黄系の悪臭(VSC)の発生を抑制します。食べ物や細菌由来の口臭への予防効果があります。