こんにちは、名古屋市瑞穂区の桜山駅から徒歩6分にあります、いわむら歯科院長の岩村です。
今回は前回に引き続き「異常な歯の形態、色調」についてです。
<歯の形成不全:局所的に認める場合>
全身的、局所的な障害が原因で起こる。エナメル質が、白斑や褐色の色調異常から、エナメル質が薄くクレーター状の表面形態の異常を呈するもの、歯冠が大きく崩壊するものもあり、歯髄炎症状の発現や歯冠崩壊の進行を予防するため歯科医院での管理を勧めます。
代表的なものとして以下のようなものがあります。
(Molar Incisor Hypomineralization :MIH)
MIHは、第一大臼歯および永久切歯に限定して起こるエナメル質の低石灰化(hypomineralization)であり、歯の発育期に何らかの原因でエナメル質の石灰化が不完全になる発育異常です。第一大臼歯(6歳臼歯)と切歯(前歯)に主に認められ、局所的にエナメル質が白斑〜黄褐色に濁って見えます。また、エナメル質が柔らかく脆く、欠けやすく、小児の歯科診療で非常に重要な疾患のひとつです。
MIHの明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、歯の発育時期(出生前〜3歳頃)に以下のような全身的・環境的要因が関与すると考えられています。
| リスク因子 | 内容 |
|---|---|
| 出生前の要因 | 妊娠中の栄養不良、喫煙、薬物 |
| 出生時の問題 | 早産、低出生体重、周産期ストレス |
| 幼少期の病気 | 高熱を伴う感染(肺炎、麻疹)、気管支炎、喘息 |
| 抗生物質の使用 | 特にアモキシシリンなどの使用歴との関連が示唆される |
| 環境毒素 | ダイオキシンやBPAなどとの関連も研究中 |
症状と臨床的特徴ですが、
①エナメル質の変色
・白濁、黄色〜茶褐色の斑点
・明瞭な境界をもつ 境界不明瞭型の低石灰化斑
・歯の表面が滑らかだが、異常に色がついている
②構造的脆弱性
・石灰化が不十分なエナメル質は摩耗・破折しやすい
・咬合力に耐えられず、歯冠崩壊を起こすことも
③知覚過敏
・歯髄が露出していなくても、冷たい・熱い・甘い刺激に敏感
④う蝕の進行
・MIHのある歯はう蝕抵抗性が低いため、虫歯が進行しやすい
診断基準ですが、以下の特徴を持つ永久第一大臼歯が1本以上認められ、切歯にも類似所見が見られる場合にMIHと診断します。
| 所見 | 内容 |
|---|---|
| 明瞭な境界のある変色 | 白、黄、茶などの不透明斑 |
| 歯冠の欠損 | 咬合面や裂溝に沿ったエナメル質の崩壊 |
| 充填物 | 明らかに歯のサイズに不釣り合いな大きさの修復物 |
| 抜歯 | 第一大臼歯の早期抜歯(他に原因がない場合) |
治療・管理ですが、
①経過観察と予防
・MIHの重症度が軽度の場合、フッ素塗布やシーラントで管理
・口腔衛生指導を徹底し、二次う蝕や破折の予防
② 修復治療(保存処置)
| 材料 | 使用場面 |
|---|---|
| コンポジットレジン | 小さな欠損や審美回 |
| グラスアイオノマー | 一時的な修復、脱落しやすい部位に |
| 鋳造冠・ジルコニア冠 | 大きな欠損や咬合面の保護に |
| ステンレスクラウン | 小児において第一選択になることも多い(6歳臼歯) |
③抜歯と矯正
重度のMIHで保存不可能な第一大臼歯 は戦略的抜歯を検討
・タイミングは8〜10歳頃が望ましい
・第二大臼歯の自然な萌出を利用し、矯正的な咬合調整を行う
MIHの歯は歯髄過敏性が高く、治療中に強い痛みや不快感を感じやすく、子どもが歯科恐怖症になるきっかけになりやすいです。局所麻酔の効果が不十分な場合もあるため、精神的ケア・表面麻酔・笑気吸入鎮静などを併用して治療に当たります。
なお、MIHはホワイトスポットについて紹介しているブログでも記載しております。
(Hypomineralized Second Primary Molar:HSPM)
HSPMは、第二乳臼歯におけるエナメル質の低石灰化(hypomineralization)のことを指します。エナメル質が不完全に石灰化されており、白濁、黄色、または褐色の変色がみられます。表面は滑らかだが、構造が弱いため破折・摩耗しやすいです。MIH(Molar Incisor と類似した病態で、MIHの早期予測因子とも考えられています。
HSPMは、**歯の形成中(乳歯では出生前~生後1年頃)**に、何らかの全身的・環境的要因により、**エナメル質形成不全(特に石灰化過程)**が障害されることで起こります。
主なリスク因子は以下の要因があります。(MIHと共通しております)
| 分類 | 例 |
|---|---|
| 周産期の異常 | 低出生体重、早産、周産期仮死など |
| 幼少期の全身疾患 | 高熱、呼吸器感染症、腸炎、喘息 |
| 医薬品 | 抗生物質(特にアモキシシリン)の長期使用 |
| 栄養不良 | カルシウム・ビタミンD欠乏など |
| 環境因子 | ダイオキシン、環境ホルモン(BPAなど) |
臨床的特徴としては以下の通りです。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 好発部位 | 第二乳臼歯(上下左右いずれも) |
| 発現形式 | 白色斑~黄色・茶色の境界明瞭な不透明斑 |
| 表面性状 | エナメル質が滑らかだが軟化している、一部欠損・破折を伴うことも |
| 合併症 | う蝕進行が早い、知覚過敏、咀嚼困難、修復物の脱離 |
HSPMがある児童は、MIHを将来発症するリスクが高いことがわかっています。第二乳臼歯と第一大臼歯は同じ時期(出生前後)に発育開始し、エナメル質形成期に影響を受け、同じような臨床的特徴(変色、破折、軟化、知覚過敏、う蝕リスクの増加)を有します。その為、HSPMはMIHの予測マーカーとして注目されています。
以下の所見があればHSPMを疑います:
・変色斑が明瞭な境界を持つ
・エナメル質の構造破折または欠損
・修復歴があり、健全歯質と不均衡な大きさの修復物
・他に虫歯や外傷の明らかな原因がない
患児における注意点としては以下のようなものがあります。
・痛みに非常に敏感
・歯医者への不安や恐怖心が強くなる可能性
・修復処置が難しい(接着不良・材料の脱離)
・保護者が気づきにくく、診断が遅れる傾向
軽度の場合は予防管理、中等度以上は修復処置などの治療が必要となります。
①予防管理(軽度の場合)
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| フッ素塗布 | エナメル質の強化、脱灰予防 |
| シーラント | 咬合面の保護(破折予防) |
| 食習慣指導 | 酸性飲食物の制限、甘味の管理 |
| 定期的なチェック | MIHの兆候も含めた継続観察 |
② 修復治療(中等度〜重度)
| 方法 | 適応例 | 使用材料 |
|---|---|---|
| コンポジットレジン修復 | 小さな欠損 | コンポジット樹脂 |
| ステンレスクラウン | 咬頭の大きな欠損や崩壊 | 金属冠(乳歯用) |
| 抜歯 | 保存不可能、痛みが強い、永久歯の交換時期に近い | 小児矯正を併用検討 |
(ターナー歯)
ターナー歯とは、外傷や感染などの局所的要因によって、永久歯のエナメル質形成が障害されて起こる歯の形態異常や変色のことを指します。特に、乳歯の感染(虫歯など)や外傷が、その下に形成される永久歯に影響を与えることで生じます。乳歯の根尖付近に炎症(根尖性歯周炎)や外傷があると、その下に位置する後継永久歯のエナメル芽細胞(アメロブラスト)に影響を与えます。エナメル芽細胞が損傷されると、エナメル質の形成が不完全になり、形態や構造の異常が生じます。
原因とリスク因子ですが、以下のものが挙げられます。
| 原因 | 説明 |
|---|---|
| 乳歯の虫歯(う蝕) | 感染が歯根を通じて永久歯胚に波及 |
| 歯根周囲の膿瘍 | 根尖病変が永久歯の発育部位に影響 |
| 乳歯の外傷 | 打撲、脱臼、押し込み(転倒など)による物理的ダメージ |
| 歯科処置による刺激 | 抜髄、過剰な根管治療など |
臨床的特徴ですが、以下のものが挙げられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 好発部位 | 前歯(特に上顎中切歯) 小臼歯(第一小臼歯)がよく見られる |
| 外観 | エナメル質の白斑、黄斑、褐色斑 ピットや溝、欠損、表面の粗造化 重度では歯冠形成不全も |
| 数 | 通常1本だけにみられる(局所的) |
| 審美的影響 | 前歯に出ると目立つため、心理的な影響も大きい |
| 知覚過敏 | エナメルが薄い・欠損しているため、刺激に敏感になることがある |
治療と管理ですが、
① 軽度の変色や表面異常
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| フッ素塗布 | 脱灰抑制、象牙質保護 |
| コンポジットレジン | 色調・形態の回復、審美性向上 |
| マイクロアブレージョン | 表層をわずかに削って白斑を軽減 |
② 中等度〜重度の欠損や審美障害
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| ダイレクトボンディング | 欠けた部分をコンポジットで修復 |
| ラミネートベニア | 前歯部の審美修復 |
| セラミッククラウン | 歯冠全体に広がる欠損や強度不足時 |
乳歯の健康管理が何よりも重要ですが、以下の点に注意することでターナー歯の発生を予防できます
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 乳歯の虫歯予防 | 正しいブラッシング、食事指導、定期検診 |
| 外傷予防 | 転倒防止、スポーツ時のマウスガード着用 |
| 感染の早期治療 | 根尖性歯周炎や膿瘍の放置を避ける |
| 歯科治療の慎重な実施 | 根管治療や抜歯時に永久歯胚を損傷しない配慮 |
かなり長くなってしまいましたので、続きは次回以降にしようかと思います。
※このブログは日本小児歯科学会が2023年4月に示した提言を参考に作製しております。