本日は、「子供の風変わりな乳歯」について説明していきます。
母子健康手帳は、1歳6か月児および3歳児歯科健康診査時だけでなく、就学前までの口腔の健康診査の状況が記録できるようになっています。その欄に「歯の形態、色調」について「異常なし・あり」と書いてあります。私達、歯科関係者は見慣れている「歯の形態、色調」でも、患児の保護者や本人は不安に感じている場合も多いかと思いますので、今回はそこを説明していければと思います。
<癒合歯>
癒合歯とは2つ以上の歯が互いに結合したものをいいます。乳歯と永久歯のどちらにも見られますが、その発生頻度は圧倒的に乳歯が高い(1~5%)です。乳歯癒合歯は下顎乳前歯部に多く発生します。
歯の結合状態から癒着歯、癒合歯(狭義の癒合歯)、双生歯に分類されます。
癒着歯:近接する歯のセメント質の部分のみが結合したもので、外観的には2本の歯に見えます。
癒合歯:発育過程にある近接する歯胚同士が接触して癒合した結果、エナメル質および象牙質が結合した状態で完成した歯をいいます。
双生歯:発育途中で歯胚歯冠部の分割が始まり、分割が不完全な状態で歯の形成が完了したものです。
これらは歯科検診では判別困難なこともあるので、歯科医院でのレントゲン撮影が判別には必要となります。
癒合歯があることの影響ですが、以下のものがあります。
歯並びへの影響:歯が大きいため、隣の歯が押されて歯列不正になることがあります。
永久歯への影響:癒合歯の下にある永久歯が欠如(先天欠如)していることがあります(30~50%の確率)
虫歯・歯周病リスク:癒合部の溝が深く、汚れがたまりやすいため、虫歯や歯肉炎のリスクが高いです。
歯の萌出遅延:永久歯の交換が遅れることがあります。
癒合歯そのものが必ずしも問題になるわけではありませんが、以下のような場合に治療が必要になります
溝が深くて虫歯リスクが高い場合 → シーラントやフッ素塗布
歯並びに影響が出ている場合 → 小児矯正(床矯正など)
永久歯が欠如している場合 → 将来の歯列計画が必要(矯正、ブリッジ、インプラントなど)
<切歯結節>
切歯結節(Cingulum Tubercle)とは、上顎側切歯(特に上顎の前歯)の舌側(内側)面にみられる小さな突起のことです。解剖学的には「結節」と呼ばれる、正常な歯の構造の一部で、主に上顎側切歯にみられ、中央にある切歯(中切歯)や犬歯にも見られることがあります。歯の舌側(ベロ側)にあるくぼみの近くに位置し、切歯の基部(歯茎に近い側)に見られる丸みや盛り上がりです。
(発生のメカニズム)
切歯結節は、歯の形成時にエナメル質小柱(エナメル器)が局所的に突出して形成されます。歯の発生異常ではなく正常な変異とされることが多いです。ただし、過剰に大きい場合や形態異常を伴う場合は、咬合や審美に影響することもあります。
( 臨床的意義・注意点)
正常な切歯結節は基本的には治療不要で、歯磨きの際に注意すれば問題ないです。
問題を起こす可能性がある場合
虫歯のリスク:結節の周囲に歯垢がたまりやすく、清掃が難しく、虫歯や歯周炎の原因になることがあります。
咬合の異常:大きな結節が下の歯と干渉する(早期接触)ことで咬み合わせに問題を生じることがあります。
審美的な問題:舌で触ると違和感があったり、見た目が気になる場合もあります。
歯の破折の原因:特に先の尖った切歯結節が外傷などで欠けることがあります。
( 治療が必要な場合は?)
結節が大きく、咬合障害や清掃困難を引き起こしている場合は、歯科医が削合・修復・フッ素塗布などを行います。しかし、一般的には定期的なチェックと丁寧なブラッシングで管理可能です。
<歯の形成不全:全体的に認める場合>
遺伝性のエナメル質形成不全症や象牙質形成不全症の場合、全歯にわたる色調の異常として観察されます。
(エナメル質形成不全症)
エナメル質形成不全症(amelogenesis imperfecta, AI)は、歯のエナメル質が正常に形成されない先天的な疾患で、エナメル質が薄い、欠ける、変色している、または完全に欠如しているといった異常がみられます。遺伝子異常によって、エナメル質の形成過程が障害されることが原因といわれており、エナメル質形成は、①分泌期(形成初期)②成熟期(硬化)③石灰化期(ミネラル沈着)がありますが、それぞれの段階で異常があると、異なるタイプの形成不全になります。
関連遺伝子としては以下のものが挙げられます。
遺伝子名 | 関連タンパク質 | 主な役割 |
---|---|---|
AMELX | アメロゲニン | エナメルの構造形成 |
ENAM | エナメリン | エナメルの厚さの調整 |
MMP20 | マトリックスメタロプロテアーゼ20 | マトリックスの分解と再構築 |
KLK4 | カリクレイン4 | エナメル質の成熟に関与 |
エナメル質形成不全症は、遺伝形式の違いによって以下のように分類されます:
遺伝形式 | 説明 | 遺伝子例 |
---|---|---|
常染色体優性遺伝 | 親のどちらか1人が変異を持っていれば発症 | ENAM など |
常染色体劣性遺伝 | 両親が保因者の場合に発症 | MMP20 など |
X連鎖性遺伝 | 女性は軽症、男性は重症化する傾向 | AMELX など |
分類 | 特徴 | 問題点 |
---|---|---|
Ⅰ型:低形成型(hypoplastic) | エナメルの厚みが不足。表面が粗く、凹凸がある。 | 審美障害、歯垢付着しやすい |
Ⅱ型:低石灰化型(hypocalcified) | エナメルは形成されるが硬化せず、柔らかい。 | 簡単にすり減る、破折、虫歯になりやすい |
Ⅲ型:低成熟型(hypomaturation) | 石灰化はあるが不完全。エナメルがもろく変色しやすい。 | エナメルが剥離しやすい |
Ⅳ型:複合型(hypoplastic-hypomaturation with taurodontism) | 他のタイプとの混合。臼歯が「タウロドント(牛歯)」化。 | 歯根の形成異常を伴う |
臨床症状としては以下のものがあります。
・エナメル質が薄く透けて見える(象牙質が見える)
・歯が黄色〜茶色に変色している
・表面がざらざら・ピット(小さな穴)状である
・虫歯になりやすい
・知覚過敏がある
・噛み合わせの異常や咀嚼障害
治療法としては、審美性の改善、咀嚼機能の回復、歯の保護を目的として以下の治療があります
年齢 | 治療内容 |
---|---|
幼児期〜学童期 | コンポジットレジンによる表面修復、フッ素塗布、シーラント |
思春期 | クラウン・ベニアでの審美・機能回復、矯正治療併用 |
成人期 | セラミッククラウン、補綴処置、インプラント(重症例) |
(象牙質形成不全症)
象牙質形成不全症(Dentinogenesis Imperfecta, DI)とは、歯の内部を構成する象牙質(ぞうげしつ)の発育に異常が起こる先天性・遺伝性の歯の形成不全です。歯が変色(青灰色〜茶色)し、脆く割れやすく、エナメル質は正常でも、下の象牙質が不良なために剥がれやすく、歯の破折や摩耗が起こりやすくなります。また、歯の見た目・機能・寿命に大きな影響を及ぼします。常染色体優性遺伝が多く、家族性に見られるのが特徴です。
関連遺伝子は以下のものがあります。
遺伝子名 | 関連疾患型 | 機能 |
---|---|---|
DSPP(dentin sialophosphoprotein) | DI-I, DI-II, DI-III | 象牙質マトリックスの形成と石灰化に関与 |
他、DMP1・COL1A1/COL1A2(OI関連) | DI-I(骨形成不全を伴う) | コラーゲン形成に関与 |
シェルドン(Shields)の分類が最も一般的で、3つのタイプ(Type I〜III)があります。
タイプ | 特徴 | 関連疾患 |
---|---|---|
DI Type I | 骨形成不全(osteogenesis imperfecta)を伴う | 骨の脆弱性、青色強膜など |
DI Type II | 骨形成不全を伴わない | 最も一般的、家族歴あり |
DI Type III | ブランディワイン型(米国) | 乳歯の早期脱落、露髄が多い、最重症 |
歯の見た目としては
①青灰色〜茶褐色(オパール様)の歯の変色がある
②光沢があるが不透明でガラスのようである
③象牙質の欠陥によってエナメルが剥離しやすく、摩耗している
機能的な問題としては
①歯がもろくて欠けやすい
②虫歯ではないのに歯が崩れる
③咬合崩壊、咀嚼障害が起こりやすい
などが挙げられます。
歯の保護、審美性の回復、咀嚼機能の維持、心理的ケアなどを目的として以下の治療方法があります。
年齢 | 治療内容 |
---|---|
幼児期 | シーラント、フッ素塗布、早期からの口腔ケア教育 |
小児期〜思春期 | クラウン(ステンレスクラウン・ジルコニアクラウン)、コンポジットレジンでの補修 |
成人期 | フルマウス補綴(クラウン・ブリッジ・義歯)、インプラント(慎重に) |
重要な管理ポイントとしては
①歯質が非常にもろいため、支台歯として使いにくい
②歯冠長が短く、補綴の維持が難しい
③咬合高径の低下による咬合異常が起こりやすい
④歯根が短く抜歯のリスクも高い
などです。
少し長くなりましたので、他の異常所見については次回のブログに記載していきます。
※このブログは日本小児歯科学会が2023年4月に示した提言を参考に作製しております。