こんにちは、名古屋市瑞穂区の桜山駅から徒歩6分にあります、いわむら歯科院長の岩村です。
今回も歯が原因ではないのに、歯が原因で痛みが出ている、そんな不思議な症状について説明していきます。
<咀嚼筋痛>
咀嚼筋痛(そしゃくきんつう)は、咀嚼(噛む)に関わる筋肉の痛みを指します。咀嚼筋は、あごの運動、つまり食べ物を噛む動作に関与する筋肉群で、主に以下の4つがあります:
🔹 咀嚼筋の主な筋肉
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咬筋(こうきん)
頬のあたりにあり、上下の歯を噛みしめる動作で強く働きます。 -
側頭筋(そくとうきん)
頭のこめかみ部分にあり、あごを持ち上げる・後ろに引く働きをします。 -
内側翼突筋(ないそくよくとつきん)
あごを閉じる・噛みしめる動作に関与します。 -
外側翼突筋(がいそくよくとつきん)
口を開ける、あごを前後・左右に動かす筋肉です。
🔍 咀嚼筋痛の主な原因
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過度な噛みしめや歯ぎしり(ブラキシズム)
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睡眠中や日中の無意識な噛みしめにより筋肉が緊張し続けて炎症を起こします。
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顎関節症(がくかんせつしょう)
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顎関節の機能障害により筋肉が過緊張状態となり、痛みを伴うことがあります。
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ストレスや精神的緊張
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ストレスが筋肉の緊張を引き起こし、慢性的な痛みを誘発することがあります。
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噛み合わせ不良(不正咬合)
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あごに偏った負担がかかり、筋肉が過労状態になります。
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長時間のガムや硬い食べ物の咀嚼
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筋肉の使いすぎにより筋肉痛が発生することがあります。
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外傷(打撲・事故など)
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顎や顔周囲の外傷が原因で筋肉に炎症が起きることがあります。
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⚠️ 主な症状
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あごの周囲(頬、こめかみ、顎関節周辺)の痛み
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口を開けると痛い、または開けづらい(開口障害)
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咀嚼時にだるさや疲労感を感じる
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筋肉を押すと痛い(圧痛)
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頭痛や肩こりを伴うこともある
✅ 対処法・治療法
🔸 自宅でできる対策
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安静・咀嚼筋の休息
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固いものを避け、柔らかい食事を心がける。
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温熱療法(ホットパックなど)
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血行を促進して筋肉のこわばりを緩める。
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マッサージ・ストレッチ
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軽く筋肉をほぐすことで緊張を和らげます。
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ストレス管理
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リラクゼーション、深呼吸、睡眠改善など。
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🔸 医療機関での治療
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歯科・口腔外科での診断と治療
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顎関節症や噛み合わせの評価。
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マウスピース(スプリント)療法
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歯ぎしりや食いしばりを防止するため、就寝時に装着。
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理学療法(リハビリテーション)
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専門的なマッサージ、運動療法など。
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薬物療法
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鎮痛薬(NSAIDs)、筋弛緩薬、抗不安薬などを処方されることもあります。
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<上顎洞性歯痛>
「上顎洞性歯痛(じょうがくどうせい しつう)」は、歯そのものに原因がないにもかかわらず、副鼻腔(上顎洞)の炎症が原因で感じる歯の痛みです。歯に問題があるように感じるため、「関連痛(放散痛)」とも呼ばれます。
🔍 上顎洞とは?
上顎洞(じょうがくどう)は、顔の中央、鼻の両側(頬の奥)にある副鼻腔(空洞)で、呼吸器とつながっています。
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鼻の奥に位置し、顔の骨(上顎骨)の中にある空洞
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粘膜で覆われていて、呼吸や声の共鳴、空気の加湿などに関与
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歯(特に上の奥歯)と非常に近い距離にある
🔥 上顎洞性歯痛の原因
一番多い原因は**副鼻腔炎(特に上顎洞炎)**です。
上顎洞に炎症が起きると、その近くにある**上顎の歯(特に第2小臼歯〜第2大臼歯)**に痛みが放散することがあります。
原因となる主な病気や要因:
原因 | 説明 |
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🔸 上顎洞炎(副鼻腔炎) | 細菌やウイルス感染によって上顎洞が炎症を起こし、粘膜が腫れる |
🔸 風邪・アレルギー性鼻炎 | 鼻の炎症が副鼻腔に広がることも |
🔸 歯性上顎洞炎 | 虫歯や根尖病変などの歯の感染が上顎洞に波及(逆パターン) |
🔸 鼻ポリープや腫瘍 | 副鼻腔の構造に異常が生じて起こることも |
🔸 急激な気圧の変化(飛行機、ダイビングなど) | 上顎洞内の圧力変化が痛みの誘因になることもあります |
🦷 上顎洞性歯痛の特徴
特徴 | 内容 |
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🔸 痛みの場所 | 上顎の奥歯(特に4番~7番)がズキズキ・ズーンと痛む |
🔸 痛みの性質 | 鈍痛、圧迫感、噛んだときに響くような感覚 |
🔸 一般的な歯科治療では改善しない | 虫歯や歯周病がないのに痛みがあることも多い |
🔸 鼻の症状を伴う | 鼻づまり、鼻水、後鼻漏(のどに鼻水が垂れる)、嗅覚障害など |
🔸 頬や目の下の痛み・圧迫感も | 副鼻腔の炎症による関連症状 |
🧪 診断方法
歯科 or 耳鼻科での検査が有効です:
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問診と視診
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痛みの性質・場所・発症時期などを確認
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レントゲン(デンタル・パノラマ)
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歯の状態と副鼻腔の陰影(膿があると白く写る)
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CT検査
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上顎洞の炎症・構造の変化を高精度で確認できる
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打診・冷温感応テスト
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歯の神経が生きているか、実際に歯が原因かを確認
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💊 治療法
原因に応じて治療法が異なります:
🦠 感染性副鼻腔炎(急性)
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抗生物質(例:アモキシシリン、クラリスロマイシン)
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消炎鎮痛剤
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点鼻薬(血管収縮剤、ステロイド)
🦷 歯が原因(歯性上顎洞炎)
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根管治療(歯の神経の治療)
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抜歯が必要なことも
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その後、耳鼻科的治療(洗浄、抗菌薬など)
🌬 アレルギー性のもの
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抗ヒスタミン薬、ステロイド点鼻薬など
✅ 注意点
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歯が原因でない場合、歯を抜いたり削ったりしても治らないので、慎重な診断が必要です。
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鼻や副鼻腔の病気は、歯科と耳鼻科の連携が重要です。
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自己判断での鎮痛薬の連用はNG。根本治療になりません。
🧭 こんなときはすぐ医療機関へ
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歯の痛みがあるが、虫歯も歯周病も見当たらない
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鼻づまりや膿のような鼻水が続いている
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目の下・頬の重だるさ、痛みがある
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風邪が長引いてから歯が痛くなった
<心因性歯痛>
「心因性歯痛(しんいんせい しつう)」とは、歯や口の中に明らかな病変がないにもかかわらず、精神的・心理的な原因で感じる歯の痛みのことです。
これは「非歯原性歯痛」の一種で、心身症や身体表現性障害の一形態として分類されることがあります。
🧠 心因性歯痛とは?
項目 | 説明 |
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病変の有無 | 虫歯・歯周病・神経の異常など、明確な歯の病気はない |
痛みの原因 | 心理的ストレス、うつ、不安、トラウマなど |
痛みの特徴 | 鋭い痛み・鈍い痛み・焼けるような痛みなど個人差あり |
対象患者 | 女性に多い傾向(特に中高年) 過去の歯科治療での不快経験がきっかけのことも |
他の症状 | 睡眠障害、頭痛、肩こり、胃腸症状などが併発することも |
💡 痛みの特徴
心因性歯痛は、以下のような独特の特徴があります:
特徴 | 内容 |
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🦷 痛む部位が変わる | 「今日は右奥歯、明日は前歯」など、部位が一貫しない |
🕐 痛みが長期間持続 | 数週間〜数年にわたることも |
⚙️ 歯科治療では改善しない | 抜歯・根管治療しても痛みが続く/別の歯が痛み出す |
💬 痛みの表現が抽象的 | 「ズーンと痛い」「骨に響く感じ」など、検査で捉えにくい |
😟 気分によって変化 | ストレスが高いときに悪化し、気を紛らわせると軽減することも |
🧪 診断方法
🦷 歯科的診断(除外診断)
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虫歯・歯周病の有無を精査
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レントゲン・CTで骨や根尖病変を確認
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冷温テストや打診で神経の異常を調べる
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症状が診断結果と一致しない場合に心因性を疑う
🧠 精神科・心療内科的診断
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心因性であるかどうかは、精神的ストレス、うつ、不安障害、心身症などの有無を問診で確認
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DSM-5では「身体症状症(旧身体表現性障害)」に該当することも
✅ よく似た疾患との鑑別(見分ける必要あり)
疾患名 | 症状の違い |
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三叉神経痛 | 発作的な電撃痛、数秒で消える |
非定型歯痛(持続性特発性顔面痛) | 心因性歯痛に非常に近い。慢性で歯の治療では改善しない |
上顎洞性歯痛 | 鼻の症状を伴うことが多い。副鼻腔炎との関係 |
顎関節症 | 顎の開閉で痛み、カクカク音がするなどの関節症状 |
💊 治療法
🧠 1. 心理的アプローチ
方法 | 内容 |
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カウンセリング | 心理的なストレスや過去の体験を掘り下げていく |
認知行動療法(CBT) | 痛みに対する考え方・行動パターンを修正する |
ストレスマネジメント | リラクゼーション、瞑想、睡眠の質の改善など |
💊 2. 薬物療法
薬剤 | 用途 |
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抗うつ薬(例:アミトリプチリン) | 慢性痛への鎮痛効果+気分安定作用 |
抗不安薬(例:ロラゼパムなど) | 不安・緊張の軽減 |
神経障害性疼痛薬(プレガバリンなど) | 神経過敏による痛みの緩和に使われることも |
🦷 3. 歯科医との信頼関係
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歯をむやみに削ったり抜いたりしないことが極めて重要
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痛みの訴えを「気のせい」や「我慢して」と切り捨てず、患者の心理に寄り添う姿勢が治療成功のカギ
🙋♀️ こんな人は要注意
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何軒も歯科を回っているが「異常なし」と言われ続けている
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抜歯後もずっと痛い(心因性または非定型歯痛の可能性)
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精神的な不調やストレスの多い生活環境
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歯の治療歴がトラウマになっている
<心臓疾患由来の歯痛>
「心臓疾患由来の歯痛」は、心臓(特に狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患)によって引き起こされる**関連痛(放散痛)**の一つです。
一見すると歯や顎の痛みに見えますが、実際は心臓の血流不足が原因であり、命に関わる可能性があるため早急な対応が必要です。
🫀 心臓疾患由来の歯痛とは?
◾️ 原因となる心臓疾患
疾患名 | 説明 |
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狭心症 | 心臓の筋肉に酸素が十分に届かず、一時的な虚血が起こる |
心筋梗塞 | 冠動脈が詰まり、心筋が壊死してしまう状態(重篤) |
心臓神経症 | ストレスや不安による胸部不快感や痛み。器質的異常なし |
🦷 痛みの感じ方・特徴
項目 | 内容 |
---|---|
🗺 放散痛(関連痛) | 心臓からの痛みが神経経路を通じて左側の歯、顎、肩、腕などに「放散」する |
🦷 歯の痛みとして感じる部位 | 特に左下顎の奥歯や前歯が痛むことが多い |
🕐 痛みのタイミング | 歩いたとき、階段を上ったとき、寒い屋外に出たときなど、身体に負荷がかかったときに起こる |
⏳ 継続時間 | 数分〜10分程度。安静にすると軽減することもある(狭心症の場合) |
🧊 性質 | 締めつけられるような痛み、ズーンと重い感じがある |
💊 歯科治療では改善しない | 虫歯や歯周病がなく、治療をしても痛みが再発する |
🧠 なぜ心臓の痛みが歯に?
心臓の痛みが歯に「放散」する理由は、以下のような**神経のネットワーク(関連痛)**によります:
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心臓の痛みは交感神経を通じて脊髄(胸髄5〜6番あたり)に伝達
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これが顔面や頚部の感覚を司る三叉神経と脊髄で連絡しているため、顎・歯・肩などに痛みを感じることがある
🚨 危険な歯痛のサイン(心臓由来が疑われる場合)
以下のような症状があれば、ただちに医療機関(内科・循環器内科・救急)を受診することをおすすめします:
チェック項目 | 有無 |
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左の奥歯や顎の痛みがあるが、虫歯などの明確な原因がない | ✅ |
階段や坂道で歯や顎の痛みが出る/安静でおさまる | ✅ |
胸の圧迫感や締めつけ、息苦しさを伴う | ✅ |
痛みが運動や寒さで誘発され、数分以内に消える | ✅ |
家族に心疾患の既往がある/自分が高血圧・糖尿病・喫煙者である | ✅ |
🧪 診断方法
🦷 歯科では…
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レントゲンや視診で虫歯や歯周病、根尖病変を確認
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異常がなければ「非歯原性歯痛」を疑い、内科への紹介
🫀 医科(内科・循環器)では…
検査名 | 内容 |
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心電図(ECG) | 虚血の有無を確認 |
血液検査(心筋トロポニンなど) | 心筋のダメージを検出 |
心エコー | 心臓の動き・血流の状態を評価 |
負荷心電図 | 運動による心臓の反応を見る(狭心症の検出) |
冠動脈CT・カテーテル検査 | 詳細な冠動脈の評価 |
💊 治療法(心臓疾患が原因の場合)
疾患 | 治療 |
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狭心症 | ニトログリセリン、β遮断薬、Ca拮抗薬、抗血小板薬など |
心筋梗塞 | 緊急PCI(カテーテル治療)、血栓溶解療法、入院管理 |
心臓神経症 | 抗不安薬、カウンセリング、生活習慣改善 |
✅ 歯科医が気をつけるべきポイント
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治療前に「持病(高血圧・心臓病)」「服薬歴(血液サラサラの薬など)」を確認
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歯に異常がない痛みは内科に紹介
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歯科治療中に「胸の痛み」「息苦しさ」を訴える患者はすぐに中断し、救急搬送も考慮