こんにちは、名古屋市瑞穂区にあります、桜山駅から徒歩6分のいわむら歯科院長の岩村です。
インプラントを埋入して、上部構造を装着したら歯科医院に通院しなくなってしまう方がいらっしゃいます。
そのような方はインプラントの歯周病である「インプラント周囲炎」に罹患する可能性がたかくなってしまいます。
そこで今回は「インプラント周囲炎」について説明していこうと思います。
インプラント周囲炎(インプラントしゅういえん)は、歯科インプラント周囲の組織に炎症が起こる病状を指します。これは、インプラントが埋め込まれた顎の骨や歯肉周辺の組織に影響を及ぼし、最終的にはインプラントの喪失につながる可能性があります。インプラント周囲炎には、以下のような特徴があります。
①原因
1. プラーク(歯垢)と細菌の蓄積
インプラント周囲炎の最も一般的な原因は、インプラント周囲にプラーク(歯垢)が蓄積し、そこに細菌が繁殖することです。プラークには細菌が豊富に含まれており、インプラント周囲の歯肉に炎症を引き起こします。特に、インプラントの表面は天然の歯と異なり、細菌が付着しやすいため、適切な口腔衛生管理が必要です。プラークが長時間放置されると、歯肉が炎症を起こし、最終的にはインプラント周囲炎に進行する可能性があります。
2. 不十分な口腔衛生
インプラント周囲炎は、インプラント周囲の清掃が不十分であることによって引き起こされます。天然の歯と異なり、インプラントは歯間ブラシやフロスでのケアが難しいため、適切な口腔ケアを怠ると、インプラント周囲に細菌やプラークが溜まりやすくなります。これがインプラント周囲炎の発症に繋がります。
3. 喫煙
喫煙はインプラント周囲炎のリスクを大きく高める要因です。喫煙によって血流が悪化し、歯肉の治癒能力が低下します。これにより、細菌感染が進行しやすくなり、インプラント周囲炎を引き起こす原因となります。さらに、喫煙は免疫機能にも悪影響を与えるため、インプラントが感染に対して脆弱になります。
4. 糖尿病
糖尿病の患者は、免疫系の働きが弱くなるため、感染に対する抵抗力が低下します。そのため、インプラント周囲炎が発症しやすくなります。特に、血糖値がコントロールされていない場合、歯肉の健康が損なわれ、インプラント周囲炎のリスクが増大します。
5. 不適切なインプラントの配置
インプラントが適切に配置されていない場合、インプラント周囲にストレスがかかり、歯肉や骨に炎症が生じることがあります。例えば、インプラントが過度に深く埋め込まれている、または角度が適切でない場合、清掃が難しくなるため、プラークが蓄積しやすくなります。
6. インプラントの設計や表面の問題
インプラントのデザインや表面の状態が問題である場合、細菌がインプラント表面に定着しやすくなります。表面が粗い場合、プラークや細菌が容易に付着し、これが炎症を引き起こす原因となります。最近では、インプラントの表面を滑らかにしたり、抗菌性のコーティングを施したりすることで、細菌の付着を減少させる技術が進んでいます。
7. 免疫系の低下
免疫系が低下している場合、インプラント周囲炎のリスクが増加します。免疫系の低下は、病気や治療、薬剤(特に免疫抑制剤)の使用によって引き起こされることがあります。免疫力が低下すると、細菌に対する防御力が弱くなり、感染が進行しやすくなります。
8. インプラントの維持管理不足
インプラント周囲炎は、インプラントの定期的な点検やメンテナンスが不足していると進行しやすくなります。インプラントを埋入後も定期的に歯科医院でのチェックアップを受け、インプラントの状態を確認し、専門的なクリーニングを行うことが重要です。
9. 歯科治療における不適切な管理
歯科治療時にインプラントの周囲に感染が引き起こされることがあります。例えば、手術中の無菌管理が不十分である場合や、インプラント周囲の治療後に適切なケアが行われない場合などが考えられます。感染が進行すると、インプラント周囲炎を引き起こす可能性があります。
②症状
1. 歯肉の腫れや赤み
インプラント周囲炎の最初の兆候として、インプラントの周りの歯肉が腫れたり、赤くなったりします。通常、健康な歯肉はピンク色で引き締まっていますが、炎症が起きると歯肉が赤く腫れ、膨らみます。この症状は、細菌感染が原因で歯肉に炎症が生じるためです。
2. 出血
インプラント周囲の歯肉が炎症を起こすと、出血が見られることがあります。歯磨きやフロスを使った時、噛んだ時に歯肉から出血することが多いです。出血が続くと、炎症が悪化している可能性があるため、早期に対処が必要です。
3. 膿の排出
進行したインプラント周囲炎では、膿が歯肉から排出されることがあります。膿は細菌感染の結果として現れるもので、膿が出ると、炎症がかなり進行していることを示唆します。膿は口臭の原因にもなりますので、放置すると問題が悪化します。
4. 口臭(悪臭)
インプラント周囲炎が進行すると、口臭が強くなることがあります。これは、細菌感染によるものです。膿が排出されることや、口腔内の不快な臭いが広がるため、口臭が気になる場合があります。
5. インプラントの動揺感
インプラント周囲炎が進行すると、インプラントが動く、あるいはぐらつくことがあります。これは、インプラント周囲の骨が吸収されて、インプラントが安定しなくなるためです。インプラントが動揺する感覚がある場合は、炎症が進行しているサインであり、早期の治療が必要です。
6. 痛みや不快感
インプラント周囲炎が軽度の段階では痛みを感じないこともありますが、炎症が進行すると痛みが現れることがあります。痛みは鈍痛や圧痛(押したときの痛み)として感じられることが多いです。食事中や噛むときに痛みが生じることがあります。
7. 歯肉の退縮
インプラント周囲炎が長期間放置されると、歯肉が後退していくことがあります。歯肉の退縮は、インプラントが露出し、見た目にも影響を与えることがあるため、早期に治療することが重要です。また、歯肉の後退は、インプラント周囲の骨の損失と関連している場合が多いです。
8. 骨吸収
インプラント周囲炎が進行すると、インプラントの周りの骨が吸収され、骨量が減少します。レントゲンで確認することができ、この状態になるとインプラントが動揺したり、最終的にはインプラントが抜け落ちることがあります。骨の吸収が見られた場合、インプラント周囲炎が深刻であることを示します。
9. 不快な感覚や異物感
インプラント周囲炎が悪化すると、口の中に異物感や不快な感覚を感じることがあります。インプラントがぐらついたり、インプラント周囲の歯肉が腫れていることが原因で、噛み合わせに違和感を覚えることがあります。
③治療法
1. 軽度のインプラント周囲炎
軽度の場合、炎症が歯肉やその周囲の組織に限られており、骨への影響が少ないことが多いです。この段階では、治療方法は比較的簡単で、主に口腔衛生の改善が求められます。
口腔衛生の改善
- ブラッシングの徹底: インプラント周囲の歯肉やインプラントの表面をしっかりと磨くことが最も重要です。特に、インプラントの表面は天然歯とは異なり、歯垢が付きやすいため、優しくでもしっかりとブラッシングする必要があります。
- フロスやインプラント用の専用ブラシの使用: インプラント周囲のプラークを取り除くため、歯間ブラシやフロス、インプラント用の専用の小さなブラシを使用することが勧められます。
- 抗菌性マウスウォッシュの使用: 口腔内の細菌を減らすために、抗菌性のマウスウォッシュを使用することも有効です。
スケーリング(歯石除去)
歯科医院での定期的なスケーリング(歯石除去)が必要です。スケーリングは、インプラントの周囲に付着した歯垢や歯石を除去し、細菌の繁殖を防ぐための基本的な治療法です。インプラント専用の器具を使用して、インプラントを傷つけないように慎重に行います。
抗生物質の使用
軽度の炎症の場合、歯科医師が抗生物質を処方することがあります。これにより、炎症を引き起こす細菌の増殖を抑えることができます。抗生物質は、細菌感染を抑制するための重要な手段です。
2. 中等度のインプラント周囲炎
中等度のインプラント周囲炎では、歯肉の炎症が進行し、軽度の骨吸収(骨の減少)が見られることがあります。この場合、さらなる治療が必要です。
外科的洗浄(フラップ手術)
インプラント周囲の深部に細菌が入り込んでいる場合、歯肉を一時的に切開してアクセスし、感染部位を直接洗浄する手術が行われることがあります。これを「フラップ手術」と呼びます。手術により、歯肉や骨に溜まった歯垢や歯石、膿を除去し、清潔に保ちます。
再生療法
中等度以上のインプラント周囲炎では、骨の損失が進行していることがあります。この場合、骨の再生を助ける治療が行われることがあります。再生療法には以下の方法があります:
- 骨移植: 失われた骨を補うために、患者自身の骨や人工骨を使って骨を再生します。
- 再生因子の使用: 成長因子などを使って、骨の再生を促進することがあります。
抗生物質の投与
中等度のインプラント周囲炎では、抗生物質を内服することがあります。感染が広がるのを防ぎ、炎症を抑えるために必要です。
3. 重度のインプラント周囲炎
重度のインプラント周囲炎では、インプラント周囲の骨の広範な吸収が進み、インプラントの動揺や喪失が懸念されます。この段階では、治療が難しくなることもありますが、適切な手術を行うことでインプラントを保存できる場合があります。
インプラントの除去
インプラント周囲炎が重度に進行し、インプラントがぐらつく、あるいは骨の損失があまりに進行した場合、インプラントを除去することが必要となることもあります。除去後、骨の再生や治療が行われ、その後再度インプラントを埋入することがあります。
骨再生手術
重度の骨吸収が見られる場合、骨移植や再生療法を行うことがあります。この手術では、人工骨や患者自身の骨を使ってインプラントを支えるための骨を再生させます。その後、新しい骨が安定して成長すれば、再度インプラントを埋入することが検討されます。
インプラントの再埋入
場合によっては、インプラントを除去した後、治療によって新しい骨が再生されれば、再度インプラントを埋入することができます。これにより、インプラントを長期的に使用できるようにします。
4. 予防と維持管理
インプラント周囲炎の再発を防ぐためには、治療後も定期的に歯科医院でのチェックアップを受け、インプラント周囲の衛生状態を保つことが重要です。具体的には、以下のことが推奨されます:
- 定期的な歯科医院でのクリーニング: インプラント周囲の清掃を定期的に行い、細菌の蓄積を防ぎます。
- 口腔衛生の徹底: 毎日のブラッシングとフロスを欠かさず行い、インプラント周囲のプラークや歯石を防ぎます。
- 喫煙の避ける: 喫煙はインプラント周囲炎を悪化させるリスクが高いため、禁煙が強く推奨されます。
- 定期的なチェックアップ: 3〜6ヶ月に一度のチェックアップを受け、インプラントの状態を確認します。