先日、とある患者様が
「昔と今とで入れ歯って治療法が本当に変わっていないよね~。もうちょっと進歩してもいいのにね。」
という会話がありました。
確かに大学時代に勉強した内容も1970年ぐらいの論文等を参考にした内容が多かったように思います。
そういえば、入れ歯ってどの時代からあるのだろうと疑問に思いましたので、今回は「入れ歯の歴史」について書いていこうかと思います。
入れ歯(義歯)の歴史も非常に古く、数千年にわたる進化があります。古代から現代まで、材料や技術が進化し、現在のような高機能で快適な義歯が実現するまでには多くの試行錯誤がありました。以下はその主な歴史的な流れです。
古代:入れ歯の起源
-
紀元前2500年頃(エジプト): 最も古い入れ歯の記録は、古代エジプトに遡ります。エジプトでは、金属や象牙、さらには貝殻などの素材を使った義歯が作られていたとされています。これらは完全に機能的な義歯というよりも、装飾的な意味合いが強かった可能性もありますが、失われた歯を補う目的で作られていたと考えられています。
-
紀元前500年頃(ローマ帝国): ローマ時代には、歯を失った人々のために金属の義歯が使われていたとされています。金属や象牙を使って、歯の欠損を補うための人工の歯が作られていました。特に、ローマの名医や歯科医が歯を補うために入れ歯を作る技術を持っていたことが知られています。
中世:技術の停滞と再発見
中世のヨーロッパでは、歯科治療の技術はあまり発展しなかったため、入れ歯の制作も停滞していたと考えられます。しかし、一定の知識と技術は引き継がれ、時折歯を失った人々のために人工歯が作られていたことが記録に残っています。
16世紀:入れ歯の革新
-
16世紀: イタリアの歯科医師ガブリエル・デル・ポルト(Gabriel Del Porto)は、義歯の製作において革新的な技術を開発しました。彼は木製の義歯に金属の金具を組み合わせたものを作り、これが一種の入れ歯として機能しました。また、象牙や金属を使用した義歯の制作技術も発展していきました。
-
18世紀(フランス): 18世紀末、フランスの歯科医師がさらに進化した義歯を作成し、より実用的で快適な義歯の使用が広まりました。象牙や金属の他に、歯科用の木材などが使用され、複数の歯を補うような義歯が作られるようになりました。
ちなみに江戸時代(1603年~1868年)になると、日本独自の義歯文化が発展します。この時期には、入れ歯が社会的に普及し始め、特に上流階級や武士階級などが使用していたことが記録に残っています。
-
木製の義歯: 江戸時代には、木を削って作った義歯が使われていたと言われています。これらの義歯は、金属や象牙よりも軽く、比較的簡単に作れるため、庶民の間でも使われていたことが考えられます。木の材質は日本で手に入れやすかったため、手軽に作れる材料として重宝されたのでしょう。
-
象牙や金属の義歯: 江戸時代後期には、象牙や金属(特に銅や鉄)を使った義歯も作られるようになりました。これらの義歯は、木製よりも耐久性があり、上流階級や商人層を中心に使用されていたと考えられます。また、これらの義歯は美術的な要素も持ち合わせており、装飾的な面もあったようです。
-
19世紀:材料の進化と義歯の普及
-
19世紀初頭: 義歯作成の技術はさらに向上し、硬いゴム素材である「ヴァルカンファイアド・ラバー」(vulcanite rubber)が使われるようになりました。ヴァルカンファイアド・ラバーは、義歯の基盤として非常に強度があり、形状を保持しやすい素材だったため、大きな進歩とされています。
-
1850年代: 歯科用の「金属合金」や「金属フレーム」を使用した義歯が登場し、さらに耐久性が向上しました。この時期には、義歯がより多くの人々に普及し、歯科医による義歯の提供が増加しました。
20世紀:近代義歯の誕生
-
1930年代: 入れ歯に使用される材料が大きく変わり、より自然な見た目を持つ「アクリル樹脂」が普及しました。この素材は、軽量で着色可能、また歯茎に合いやすく、患者にとって快適な義歯を提供することができました。
-
1950年代: 歯科材料の改良により、義歯の適合性と機能性が大きく向上しました。アクリル樹脂に加え、セラミック製の歯が使われるようになり、見た目がより自然になりました。また、義歯の作成技術も大きく発展し、印象材の改良やコンピュータ支援による製作技術(CAD/CAM技術)の基礎が築かれました。
-
1970年代以降: 「インプラント義歯」の概念が登場しました。これは人工歯根を骨に埋め込む方法で、入れ歯とは異なり、安定性が高く、噛む力を直接支えることができるため、多くの人々に選ばれるようになりました。
21世紀:デジタル技術と精密な入れ歯
- 現代: 現在では、デジタル技術を活用した義歯の作成が主流となり、精密な型取りやデザインが可能となっています。3Dプリント技術の導入によって、さらに短期間で高精度な義歯が作れるようになり、患者のニーズに応じたカスタマイズが進んでいます。
また、インプラントの技術が進化し、より多くの人々が安定した義歯の使用を実現しています。加えて、義歯の見た目や快適さも向上しており、入れ歯に対する社会的な偏見も少なくなってきています。
16世紀に制作された入れ歯は以前実物を拝見したことがあります。木から削り出して制作したもので、仏具等を制作していた方が仕事の傍らしていたのが、段々そちらの仕事がメインになっていったと説明文に記載してあった記憶があります。歯科技工士さんの原型はもしかしたらそのような人たちだったかもしれませんね。
当院では、歯科技工士さんと連携してなるべく早くしっかり噛める入れ歯を制作することをモットーにしております。実際に、型取りから完成まで10日程度で行った症例もあります。入れ歯がなんかしっくりこないなという方、入れ歯を作りなおしたいけど、早くつくってほしいなという方は是非ともお声がけ下さい!