こんにちは、名古屋市瑞穂区にありますいわむら歯科院長の岩村です。
皆様は「口腔乾燥症」あるいは「ドライマウス」って聞いた事ありますでしょうか?
今回はドライマウスについて説明していきます。
ドライマウスとは口腔内の唾液の分泌が減少することによって、口の中が乾燥する状態を指します。この状態は、さまざまな原因によって引き起こされることがあります。唾液は主に、耳下腺、顎下腺、舌下腺の3大唾液腺から分泌され、成人では1日に約1.5ℓ分泌されます。唾液の主成分は水とムチンで、口の中の洗浄作用や潤滑作用、さらに抗菌作用や口の中を中性に保つための緩衝作用があります。唾液の分泌が50%程度まで低下すると、ドライマウスを自覚するようになると報告されています。
(原因)
加齢
ドライマウスの多くは加齢変化により唾液腺細胞には問題ないものの唾液分泌量が低下したため生じると考えられています。
脱水
水分摂取が不足している場合や、発熱、下痢などによる脱水状態も原因となります。
薬剤の副作用
多くの薬剤が唾液の分泌を抑えることがあります。特に以下のような薬が影響を与えることがあります。
抗うつ薬: 一部の抗うつ薬は、神経系に作用し、唾液腺の機能を低下させることがあります。
抗ヒスタミン薬: アレルギー治療に用いられるこれらの薬は、唾液の分泌を減少させることがあります。
高血圧治療薬: 一部の降圧剤も唾液の分泌に影響を与えることがあります。
鎮痛剤や筋弛緩剤: これらの薬も唾液腺に影響を及ぼすことがあります。
病気
いくつかの病気がドライマウスを引き起こすことがあります。
シェーグレン症候群: 自己免疫疾患で、唾液腺や涙腺が攻撃され、唾液の分泌が減少します。
糖尿病: 血糖値のコントロールが不十分な場合、口腔内の乾燥が生じることがあります。
パーキンソン病: 神経系の疾患で、唾液の分泌が減少することがあります。
HIV/AIDS: 免疫系に影響を与えるこの病気も、ドライマウスを引き起こすことがあります。
放射線治療
頭頸部のがんに対する放射線治療は、唾液腺にダメージを与え、唾液の分泌を減少させることがあります。特に、放射線治療を受けた後は、長期間にわたってドライマウスを引き起こします。
(症状)
口の乾き
最も一般的な症状は、口内の乾燥感です。唾液の分泌が減少することで、舌や口の中が乾いた感じがします。この乾燥感がひどくなると、話すことや食べることが困難になることがあります。
舌の乾燥・痛み
乾燥した口内で舌も乾きやすく、舌がザラザラして痛みを感じることがあります。また、舌の表面が荒れて白くなることもあります。
口臭
唾液が不足すると、口の中の細菌の繁殖が進みやすく、これが原因で口臭が発生します。乾燥した口内では、唾液が口腔内を清潔に保つことができないため、口臭が強くなることがあります。
話しにくさや飲み込みにくさ
唾液が不足していると、食べ物や飲み物を飲み込むときに摩擦が増し、喉が痛くなったり、飲み込みがしにくく感じることがあります。また、会話をしているときにも口が乾いて言葉がうまく出てこないことがあります。
口内の粘つき感
唾液の分泌が減ると、口内が粘つく感じがします。これにより、口の中が不快に感じることがあります。
唇の乾燥やひび割れ
唾液が少ないと、唇も乾燥しやすく、ひび割れや痛みを伴うことがあります。
虫歯や歯周病のリスク増加
唾液には歯を保護する役割がありますが、唾液が不足すると、歯や歯茎が守られにくくなり、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
味覚の変化
口の中が乾燥すると、味を感じる能力が低下することがあります。特に、食べ物や飲み物の味が薄く感じることがあります。
口腔内の傷や炎症
乾燥した口内では、口腔内の粘膜が刺激を受けやすく、傷や炎症を起こすことがあります。特に、義歯を使用している場合、口内の乾燥が原因で粘膜に傷ができやすくなります。
(検査、診断)
症状の評価
医師や歯科医師は、患者が感じている乾燥感や不快感について詳しく聞きます。主に以下のような質問が行われます。
・口内の乾燥感がどれくらいの診断頻度で現れるか。
・どのような場面で乾燥感を強く感じるか(例:寝起き時、会話中、食事中)。
・舌や唇の乾燥、痛み、口臭、飲み込みにくさなど、他の症状があるか。
・水分摂取後に症状が改善するか、逆に悪化するか。
これにより、ドライマウスの症状の重さや影響を評価します。
医療歴と薬の確認
ドライマウスは、いくつかの病気や薬が原因で発生することがあるため、医師は患者の病歴を詳しく確認します。具体的には以下の点が確認されます。
・薬物歴:服用している薬、特に抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、降圧薬、利尿薬、鎮痛薬などが唾液分泌を抑制する可能性があるため、その有無を調べます。
・病歴:糖尿病、シェーグレン症候群、パーキンソン病、放射線治療歴などがドライマウスの原因として挙げられるため、それらに関連する症状や治療歴も確認します。
口腔内の検査
実際に口腔内を検査して、乾燥の程度やその他の口腔内の異常を確認します。具体的な検査内容は以下の通りです。
・口腔内の乾燥具合:口の中の粘膜の乾燥度、唇や舌の状態をチェックします。舌が白くなったり、ひび割れがある場合、乾燥症状が進行している可能性があります。当院では、ムーカスという機械を用いて口腔内の乾燥具合を測定しております
・唾液分泌の量:医師は、唾液腺からの唾液の分泌量を測定することがあります。唾液分泌量が少ない場合、ドライマウスが疑われます。
唾液分泌の測定
唾液の分泌量を客観的に測定するために、いくつかの方法が使用されることがあります。代表的な方法は以下の通りです。
・唾液分泌量の測定:口の中の唾液を収集し、その量を測定します。通常、特定の時間(例:5分間)に分泌される唾液量が基準として使用され、これが少ない場合、ドライマウスが示唆されます。
・唾液の粘度の測定:唾液が乾燥して粘度が増すことがあるため、その粘度を測定することがあります。
シェーグレン症候群の検査
シェーグレン症候群は、免疫系が唾液腺や涙腺を攻撃し、乾燥症状を引き起こす自己免疫疾患です。この疾患が疑われる場合、以下の検査が行われます。
・血液検査:シェーグレン症候群に関連する抗体(例:抗SS-A抗体、抗SS-B抗体)を検出するための血液検査が行われます。
・唾液腺の検査:唾液腺の機能を評価するために、唾液腺のエコー検査や生検が行われることがあります。
乾燥症状を引き起こす病気の除外
ドライマウスの原因として他の病気が関与している場合、それらを除外するための検査も行います。例えば、糖尿病やパーキンソン病、脱水症状などが関連している場合があります。そのため、必要に応じて血液検査や尿検査が行われることがあります。
追加の診断ツール
ドライマウスの診断が難しい場合、さらに詳細な検査が行われることがあります。これには、唾液腺のX線検査(サリヴァグラフィー)や唾液腺のMRI検査などが含まれます。
(治療)
ドライマウス(口腔乾燥症)の治療法は、その原因や症状の重さに応じて異なります。基本的には、唾液の分泌を促進し、乾燥による不快感を和らげることが治療の主な目的です。また、ドライマウスの原因が特定されている場合は、その原因に対する治療も行われます。以下は、一般的な治療法について詳しく説明します。唾液分泌を促進する治療
唾液の分泌を増加させるために使用される治療法や薬物があります。
a. 人工唾液(口腔用潤滑剤)
人工唾液は、唾液の不足を補うために使用される液体で、口腔内を潤滑し、乾燥感を和らげます。市販されている製品には、スプレータイプ、ジェルタイプ、うがい薬タイプがあります。これらは、食事中や会話中に口の中が乾燥した際に使用します。
b. 唾液分泌を促進する薬物
医師が処方する薬物として、唾液の分泌を刺激する薬があります。代表的なものは以下です。
・ピロカルピン(サラジェン):唾液腺を刺激して唾液分泌を増加させる薬です。特に、シェーグレン症候群や放射線治療後にドライマウスが生じた場合に使用されることが多いです。
・セビメリン(エボクア):ピロカルピンと同様に唾液分泌を促進する薬です。シェーグレン症候群やその他のドライマウスに関連する病状に対して使用されます。これらの薬は、唾液腺を刺激することによって乾燥感を軽減しますが、副作用や効果の個人差があるため、医師の指導のもとで使用することが重要です。
当院では上記の薬剤の取り扱いはしておりませんが、漢方薬による処方が可能です。
c. 唾液腺マッサージ
唾液腺を手で軽くマッサージすることによって、唾液分泌を促進する方法です。特に耳下腺や顎下腺などの主要な唾液腺を刺激することで、唾液の分泌を助けることができます。
口腔ケア
ドライマウスでは口腔内の乾燥が原因で虫歯や歯周病のリスクが高くなるため、適切な口腔ケアが重要です。
a. フッ素入り歯磨き粉の使用
唾液が不足すると、歯を保護する役割が低下するため、フッ素入りの歯磨き粉を使うことで歯のエナメル質を強化し、虫歯を予防します。また、定期的に歯科医院での検診を受けることも大切です。
b. アルコールフリーのマウスウォッシュ
アルコールを含まないマウスウォッシュは、乾燥を悪化させないため、口腔内の清潔を保つために使用します。殺菌作用や防臭効果があり、口腔内を清潔に保つことができます。
c. 歯科治療
ドライマウスが引き起こす虫歯や歯周病を防ぐため、定期的に歯科医師によるチェックと治療が必要です。ドライマウスが進行すると、歯の健康が損なわれる可能性が高くなります。
生活習慣の改善
乾燥症状を軽減するために、いくつかの生活習慣を見直すことが有効です。
a. 水分補給
水分をこまめに摂取することが重要です。特に、飲み物にはカフェインやアルコールを含まないものを選びましょう。カフェインやアルコールは利尿作用があり、体内の水分を奪うことがあります。
b. 加湿器の使用
乾燥した空気もドライマウスを悪化させる原因となるため、室内の湿度を適切に保つために加湿器を使用することが有効です。
c. 食事の工夫
食事中に乾燥を感じる場合は、食べやすい食材を選んだり、食事をゆっくりと摂取することが有効です。柔らかい食べ物や水分を含む食材(スープや果物など)を摂ると、飲み込みやすくなります。
原因となる病気の治療
ドライマウスの原因が特定されている場合、その病気に対する治療も重要です。
a. シェーグレン症候群
シェーグレン症候群に伴うドライマウスの場合、免疫抑制剤や生物学的製剤(例:ヒュミラ)を使うことで症状の改善を図ります。シェーグレン症候群の管理には、リウマチ科や免疫科の治療も重要です。
b. 糖尿病
糖尿病が原因でドライマウスが発生している場合、血糖コントロールが重要です。血糖値の安定が唾液分泌を助け、ドライマウスの症状を軽減します。
c. 放射線治療後のケア
放射線治療後のドライマウスは、唾液腺が損傷を受けるため発生します。この場合、唾液分泌を促進する薬や人工唾液、口腔ケアの強化が重要です。また、治療後の口腔内の感染症予防も大切です。
心理的なケア
ドライマウスが心理的なストレスや不安から引き起こされている場合、ストレス管理や心理的サポートが有効です。リラクゼーション法やカウンセリングを受けることで症状が緩和することがあります。