こんにちは、名古屋市瑞穂区、桜山駅から徒歩6分にあります、いわむら歯科院長の岩村です。
今回は「お口の中にある骨隆起」について説明していきます。
🦷 骨隆起とは
骨隆起とは、口の中の顎の骨(歯槽骨)や口蓋骨が局所的に過剰に発達してできた骨の膨らみのことを指します。
これは病気や腫瘍ではなく、生理的・遺伝的な骨の過形成(こつかけいせい)です。
痛みや悪性化は通常ありません。
🔍 主な種類
骨隆起はできる場所によって名称が異なります。
| 名称 | 部位 | 特徴 |
|---|---|---|
| 口蓋隆起(こうがいりゅうき / Torus palatinus) | 上顎の正中(口蓋の真ん中) | 女性に多く、硬口蓋の中央がドーム状に盛り上がる |
| 下顎隆起(かがくりゅうき / Torus mandibularis) | 下顎の内側、犬歯〜小臼歯部の舌側 | 男性に多く、左右対称にできやすい |
| 頬側隆起(buccal exostosis) | 奥歯の外側(頬側) | 義歯の刺激や咬合圧で生じることもある |
| 外骨症(exostosis) | 広義の用語で、口腔内外の骨隆起を指す総称 |
🧬 原因
明確な原因は完全には分かっていませんが、複数の要因が関係していると考えられています。
① 遺伝的要因(genetic factors)
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家族内発生が多く、遺伝的素因が強く関係すると考えられています。
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双子研究でも、一卵性双生児では発現率が高く一致することが報告されています。
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特定の人種(モンゴロイド、エスキモーなど)で頻度が高いことも遺伝的背景を示唆しています。
🔹 推定される機序
顎骨や口蓋骨の骨形成能(骨芽細胞の活動性)が遺伝的に高い → 咬合刺激などに対して骨が過剰反応して増殖する。
② 機械的要因・咬合圧(functional or mechanical stress)
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歯ぎしり(ブラキシズム)や食いしばりなど、長期間にわたる強い咬合力が刺激となる。
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骨は**力学的刺激に適応して発達する(Wolffの法則)**ため、慢性的な応力が加わる部位で骨の肥厚(過形成)が起こりやすくなります。
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特に下顎隆起は、下顎小臼歯部舌側で咬合力の応力が集中しやすい場所に一致して出やすい。
🔹 まとめると:
「咬む力による局所的な応力刺激に、遺伝的に骨形成反応が強い人がさらされる」 → 骨隆起が生じやすい。
③ 咀嚼習慣・食生活
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硬いものをよく食べる習慣のある民族や個人で頻度が高い傾向。
(例:日本人、エスキモーなど) -
咀嚼筋の発達や顎骨への機械的刺激の増加が、骨の反応性肥厚を促すと考えられます。
④ 発育・成長因子の関与(biological factors)
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思春期~青年期にかけて骨隆起が発達しやすいことから、
**成長ホルモンや性ホルモン(特にエストロゲン)**が関与する可能性が指摘されています。 -
女性に多い「口蓋隆起」には、エストロゲン受容体の影響が示唆されています。
⑤ 局所刺激や炎症の影響
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義歯の長期装着や、特定部位への慢性的な圧迫・刺激も骨の反応性増殖を引き起こす場合があります。
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外骨症(buccal exostosis)では特にこの要素が強い。
🧩 臨床的特徴
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表面は正常な粘膜で覆われ、硬く、可動性がない
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成長は非常に緩やかで、思春期〜青年期に発達し、成人で安定することが多い
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通常は無症状
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義歯装着時の障害や外傷による潰瘍を起こすことがある
🦷 診断
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視診・触診:骨様硬で可動しない隆起
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X線・CT:骨構造が確認できる
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鑑別診断:腫瘍や嚢胞との区別が必要(急速に増大した場合など)
💊 治療
🩺 1. 治療の基本方針
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 無症状・日常生活に支障がない | 経過観察(処置不要) |
| 義歯・発音・咀嚼・清掃などに支障がある | 外科的除去を検討 |
骨隆起は良性で悪性化もしないため、「治療しなくても問題ない」ことがほとんどです。
しかし次のような場合には外科的介入が適応となります。
⚠️ 2. 手術適応(除去が必要な場合)
以下のいずれかに該当する場合:
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義歯の装着に支障
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骨隆起の上に義歯が安定しない
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義歯の粘膜面が当たって痛み・潰瘍を生じる
→ 義歯前処置として除去を行う。
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慢性刺激や潰瘍の反復
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食事・ブラッシング・舌運動などで繰り返し粘膜損傷を起こす。
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舌・発音・嚥下の障害
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特に下顎隆起で舌の可動域が制限される場合。
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審美的・心理的理由
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大きく膨隆していて見た目が気になる。
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腫瘍・嚢胞などとの鑑別が必要
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急速に大きくなった、左右差が強い、圧痛があるなどの異常所見を伴う場合。
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🦷 3. 外科的除去の概要
(1)術前準備
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X線(パノラマ・CT)で範囲・厚みを確認
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全身状態の確認(出血傾向・糖尿病など)
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局所麻酔で実施(通常は日帰り)
(2)手術手順(一般的な流れ)
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局所麻酔
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浸潤麻酔または伝達麻酔を行う。
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切開・粘膜剥離
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骨隆起上の粘膜を切開し、骨膜下で剥離して露出。
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骨削除
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ラウンドバーや骨ノミを用いて骨を削除・整形。
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必要に応じてボーンファイルで滑らかに仕上げる。
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止血・洗浄
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生理食塩水で洗浄し、骨片を除去。
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縫合
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粘膜を戻して吸収糸またはナイロン糸で縫合。
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術後管理
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圧迫止血、抗菌薬投与、鎮痛薬処方。
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(3)手術時間・痛み
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通常:30〜60分程度(両側下顎隆起なら1時間前後)
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痛み:麻酔中はほとんどなし、術後は2〜3日鈍痛や腫脹があるが鎮痛薬でコントロール可能。
🧩 4. 術後の経過と注意点
| 時期 | 注意点 |
|---|---|
| 手術直後〜24時間 | 圧迫止血、冷却(氷嚢など)、出血防止のため強いうがい禁止 |
| 2〜3日後 | 軽度の腫脹・疼痛あり。軟らかい食事を推奨。 |
| 1週間前後 | 抜糸。傷が安定してきます。 |
| 2〜4週間 | 粘膜が治癒、義歯作製や再装着が可能になります。 |
⚕️ 5. 合併症・注意すべきこと
| 合併症 | 内容 |
|---|---|
| 出血 | 下顎では舌下動脈・オトガイ動脈などに注意 |
| 感染 | 術後の口腔衛生不良による |
| 神経損傷 | 下顎隆起では舌神経・オトガイ神経を損傷しないよう注意 |
| 粘膜裂開・創離開 | 義歯装着時期を早めすぎると再開創のリスク |
🧬 6. 治療しない場合(経過観察)
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成長速度が非常に遅いため、多くは一生そのままでも問題なし。
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定期的な歯科検診で変化を確認すれば十分。
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義歯や咬合力の変化によりトラブルが出てから除去を検討しても遅くありません。
当院ではあまり大きくない骨隆起なら除去手術も可能です。しかし、大きい骨隆起の除去手術だと全身的な管理が必要となる場合もありますので、近隣の大学病院に依頼する形をとっております。