こんにちは、名古屋市瑞穂区の、桜山駅から徒歩6分にあります、いわむら歯科院長の岩村です。
今回は「歯が痛いのに歯には原因がない」という事について解説していきます。
何をいっているのか解りづらいとは思いますが、歯科治療を色々するけど痛みが改善しない患者さんもまれにいらっしゃいます。虫歯や歯周病などではなく、歯や歯周組織には原因がないのに、歯に痛みを感じる状態を「非歯原性歯痛」といいます。歯だけでなく、口の中やあご、顔などに痛みが発生する場合もあります。誤って抜歯や根管治療をしてしまうケースもあるため、慎重な診断が重要です。その為、歯科医と他科(耳鼻科、神経内科、心療内科など)との連携が大切となってきます。
🧠 非歯原性歯痛の診断のポイント
❗以下のような場合、非歯原性の可能性が高いです
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歯の治療をしても改善しない痛み
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痛みの部位が移動する
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痛みが歯の神経の走行に一致しない
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神経ブロックや麻酔で痛みが軽減しない
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痛みが刺すよう、焼けるよう、電気的など非典型的
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精神的ストレスや不安と関係している
🔍 非歯原性歯痛の主な原因
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以下のように、さまざまな非歯科的要因が歯痛を引き起こすことがあります:
1. 神経障害性疼痛(Neuropathic pain)
・三叉神経痛
・帯状疱疹後神経痛
・異所性神経障害性疼痛
2. 筋・筋膜性疼痛(筋肉由来の痛み)
・咀嚼筋痛(咬筋・側頭筋など)
3. 上顎洞性歯痛(副鼻腔炎による)
・副鼻腔炎(特に上顎洞)
4. 心因性歯痛(Psychogenic tooth pain)
5. 心臓疾患由来の歯痛
それぞれ細かく解説していきます。今回のブログでは神経障害性疼痛について説明していこうかと思います。
<三叉神経痛>
三叉神経痛(さんさしんけいつう、trigeminal neuralgia)は、顔面の三叉神経の一部に異常な刺激が加わることで生じる、突然で激烈な顔面の痛みを特徴とする神経障害性の疾患です。痛みは通常、発作的に数秒~数分間持続し、電撃的または刺すような感覚が特徴です。
🔍 三叉神経の基礎
三叉神経(第V脳神経)は、顔の感覚を司る大きな神経で、以下の3本に枝分かれしています:
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眼神経(V1):額、上まぶた、鼻の上部
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上顎神経(V2):頬、上唇、上の歯、上顎
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下顎神経(V3):下唇、下の歯、下顎、舌の前2/3(感覚)
三叉神経痛は 片側性 に起こり、特に V2(上顎)またはV3(下顎)領域に多く見られます。V1は比較的まれです。
🔥 三叉神経痛の症状
特徴 説明
痛みの性質 電撃的、焼けるよう、鋭く突き刺すような痛み
発作の持続時間 数秒~2分程度
発作の頻度 1日に数回~数十回。無症状の間欠期がある
誘因(トリガー) 顔に触れる、歯磨き、ひげ剃り、話す、風にあたる、咀嚼など
痛みの部位 通常は片側、V2またはV3の領域に一致
他の症状 通常は感覚麻痺なし。ただし長期間放置や二次性の場合は感覚障害を伴うことも
🧠 原因
1. 原発性(三叉神経血管圧迫症候群)
・最も一般的な原因。
・動脈や静脈が三叉神経根を圧迫することで発症。
・神経が圧迫されると髄鞘(ミエリン)が損傷し、異常な電気信号が発生。
2. 続発性(二次性)
・三叉神経の圧迫や損傷を起こす疾患が原因。
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多発性硬化症(MS)
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脳腫瘍(例:神経鞘腫、髄膜腫)
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脳動静脈奇形
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外傷や手術後
🔬 診断
✅ 診断は基本的に臨床症状に基づくが、画像検査が重要です:
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MRI(磁気共鳴画像)
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血管による圧迫の有無を確認
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腫瘍や多発性硬化症の除外
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神経学的検査
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感覚異常があれば二次性の可能性を考慮
💊 治療法
1. 薬物療法(第一選択)
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薬剤 | 解説 |
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カルバマゼピン(テグレトール) | 最も効果的な治療薬。90%以上の患者に効果。 |
オキスカルバゼピン | 副作用が少なく、代替として使用される。 |
ガバペンチン、プレガバリン | 他の神経痛治療薬として補助的に使われる。 |
バクロフェン | 筋弛緩薬で、痛みがコントロール困難な場合に併用することも。 |
副作用(眠気、ふらつき、肝機能障害など)に注意しながら、少量から開始し漸増します。
2. 手術療法
薬物が効果を示さない場合や副作用で継続困難な場合に検討。
🧠 微小血管減圧術(MVD: Microvascular Decompression)
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血管が神経を圧迫している場合に、血管を神経から離してクッションを入れる手術。
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根治的で、再発率が低い(5年で約15〜20%)。
🔥 ガンマナイフ(定位放射線治療)
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神経根に高精度の放射線を照射。
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非侵襲的だが、効果発現に数週間かかる。
☠️ 三叉神経の選択的破壊療法
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グリセロール注入、バルーン圧迫法、高周波熱凝固など。
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痛みはすぐに改善されるが、感覚麻痺の副作用が出ることがある。
<帯状疱疹後神経痛>
帯状疱疹後神経痛(たいじょうほうしんごしんけいつう、postherpetic neuralgia:PHN)は、帯状疱疹の発疹が治った後にも、神経の損傷によって長期間持続する慢性の神経痛です。高齢者を中心に発症しやすく、強い痛みによって生活の質(QOL)を大きく低下させることがあります。
🌡️ 帯状疱疹とは?
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水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が原因。
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子どものころに水ぼうそうとして感染したウイルスが、治癒後も脊髄後根神経節などに潜伏。
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加齢・免疫低下などで再活性化 → 神経に沿って皮膚に帯状の発疹と痛みが出現。
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通常は片側性の痛み+発疹が特徴。
💥 帯状疱疹後神経痛(PHN)とは?
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帯状疱疹の皮膚症状が治っても、痛みだけが持続または再発する状態。
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通常、発疹の発症から90日(約3ヶ月)以上痛みが持続する場合にPHNと診断されます。
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神経の損傷や炎症によって異常な神経信号が発生し、痛みが続きます。
🧠 原因・メカニズム
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帯状疱疹によって末梢神経および脊髄後根神経節が障害される。
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神経が傷つき、痛覚過敏や異常感覚が生じる。
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痛み信号の調整がうまくできなくなり、持続的な痛みや異常な感覚が発生。
📊 発症リスク
要因 内容
年齢 60歳以上で発症率が高い(70代以上で特に多い)
重症の帯状疱疹 強い痛みや広範囲の皮疹がある場合、神経障害が強く残りやすい
発疹治療の遅れ 早期に抗ウイルス薬を投与しないと、神経の損傷が進行する
🩺 症状
帯状疱疹後神経痛の痛みは以下のような多様な形を取ります:
痛みのタイプ 説明
焼けるような痛み(灼熱感) 最も典型的
刺すような鋭い痛み 電撃的または鋭い痛み
締めつけられるような痛み 鈍い持続痛
痛覚過敏(アロディニア) 軽く触れただけでも激痛が走る
感覚鈍麻と痛みの併存 痛いのにしびれているという矛盾した感覚
🔬 診断
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基本的には帯状疱疹の既往 + 痛みの持続時間と性質から診断。
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特別な検査は必要ないことが多いが、類似する神経痛との鑑別(例:三叉神経痛、糖尿病性神経障害など)が必要な場合も。
💊 治療
1. 薬物療法(第一選択)
薬剤カテゴリ | 代表薬 | 説明 |
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三環系抗うつ薬 | アミトリプチリン、ノルトリプチリン | 神経障害性疼痛に効果。副作用に眠気や口渇あり |
SNRI | デュロキセチン | 抗うつ作用+鎮痛効果 |
抗けいれん薬 | ガバペンチン、プレガバリン | 痛みの信号を抑制。副作用に眠気・めまいなど |
オピオイド | トラマドール、モルヒネなど | 難治性の場合に使用。ただし依存や副作用に注意 |
局所治療 | リドカイン貼付剤、カプサイシン外用薬 | 特定の部位に対して効果。貼付部位の選定が重要 |
2.神経ブロック療法
・星状神経節ブロック、硬膜外ブロックなど。
・一時的に強い痛みを和らげるのに有効。
3. 理学療法・補完療法
・温熱療法、マッサージなど。
・ストレス緩和やQOL向上にも寄与。
🚫 帯状疱疹後神経痛の注意点
・完全に治癒するのは難しいこともある。
・慢性化するとうつ病や不眠の原因にもなる。
・痛みの感じ方は個人差が大きく、治療はオーダーメイドが原則。
🛡️ 予防法
✅ ワクチン接種(非常に有効)
・50歳以上の方に**帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン:シングリックスなど)**が推奨されます。
・ワクチンによって、帯状疱疹そのものやPHNのリスクを大幅に低下させる。
<異所性神経障害性疼痛>
異所性神経障害性疼痛(いしょせいしんけいしょうがいせいとうつう、ectopic neuropathic pain)は、本来痛みを感じるべき場所とは異なる部位に、神経の損傷や異常が原因で痛みが生じる状態を指します。これは神経障害性疼痛(neuropathic pain)の一形態であり、特に歯科や顔面領域での診療において非常に重要な概念です。
🔍 定義と概要
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「異所性(ectopic)」とは、「通常あるべき場所とは異なる位置にある」という意味。
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「神経障害性疼痛」は、末梢または中枢神経系の損傷または疾患によって生じる痛み。
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異所性神経障害性疼痛では、神経の損傷部位とは異なる場所に痛みが放散または誤認識されて現れる。
🧠 メカニズム
神経障害によって、痛みを伝える経路に異常な活動や感受性の亢進が生じ、以下のような現象が起こります:
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異所性発火(ectopic discharges)
→ 損傷された神経が、本来刺激がないのに痛みの信号を出す。 -
神経の再構築と過敏化
→ 神経が修復過程で異常なつながりを形成し、痛みの処理が誤作動。 -
中枢性感作(central sensitization)
→ 脊髄や脳内で痛みに対する過敏状態が続くことで、弱い刺激でも痛みを感じるようになる。
🦷 歯科・口腔領域での異所性神経障害性疼痛
特に歯科では、以下のようなケースでこの疼痛が起こることがあります:
✅ 例1:抜歯後の痛みが「別の歯」に現れる
→ 例えば、下顎大臼歯の抜歯後に痛みが上顎犬歯に現れる。
✅ 例2:根管治療後に原因歯とは異なる場所が痛む
→ 実際には治療部位の神経が損傷されていても、患者は「別の歯が痛い」と訴える。
✅ 例3:歯のない部位の痛み(幻肢痛様の症状)
→ 抜歯して何年も経っている部位に「歯が痛むような感覚」が残る。
🔬 症状の特徴
特徴 内容
痛みの性質 焼けるよう、刺すよう、電気が走るような感覚
持続性 持続的あるいは反復性の痛み
アロディニア 触っただけで痛い(痛覚過敏)
痛みの場所 明確な原因部位と一致しない。移動。拡散する
誘因 歯科処置、外傷、ウイルス感染(例:帯状疱疹)など
🧪診断のポイント
🔍 チェックポイント
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歯科的な異常(虫歯、歯周病など)が見つからないのに痛みが続く。
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神経走行に沿って痛みが拡がっている。
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同じ歯の麻酔で痛みが消えない。
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痛みが一箇所に限定されず「移動する」「複数箇所が痛む」。
💊 治療
治療は神経障害性疼痛に準じて行われ、通常の鎮痛薬(ロキソニンなど)は効果がありません。
1. 薬物療法
薬剤 | 説明 |
---|---|
ガバペンチン / プレガバリン | 神経の異常発火を抑える。眠気やめまいが副作用 |
アミトリプチリン(TCA) | 三環系抗うつ薬。神経障害性疼痛への適応あり |
デュロキセチン(SNRI) | 抗うつ薬としても使用。慢性痛に効果的 |
トラマドール | 弱オピオイド。難治性の場合に使用される |
2. 神経ブロック
・星状神経節ブロックや局所麻酔による診断的ブロックが有効なことも。
3. 心理的アプローチ
・痛みによる不安やストレスが悪循環を生むため、心療内科的支援や認知行動療法が補助的に有効。