こんにちわ、名古屋市瑞穂区にあります、桜山駅から徒歩6分、いわむら歯科院長の岩村です。
今回は「歯医者で処方できる漢方」について説明していきます。
以前のブログで記載したのですが、当院では口臭治療に漢方薬を使用する事があります。当然、口臭治療の一環として処方するので自費診療なのですが、そもそも歯科で保険で処方できる漢方薬もあります。今回は「保険診療で処方できる漢方薬」について、そして当院で処方している漢方薬について説明していきます。
(漢方薬とは)
漢方薬(かんぽうやく)とは、中国の伝統医学(中医学)に基づいて日本で独自に発展した、植物・鉱物・動物など自然由来の生薬(しょうやく)を組み合わせた薬のことです。病気の症状だけでなく、体質や体全体のバランス(気・血・水など)を整えることを重視します。
漢方薬の選択方法は、病名治療、方証相対、弁証論治の3種類があげられますが、多くの漢方医はこの3種の診断方法を混合して漢方薬を処方しています。
<病名治療>
西洋医学に近いアプローチで、「病気の名前(診断名)」に基づいて治療する方法です。病名が明確な病気に対して行う治療で、例えば「高血圧」「胃潰瘍」「糖尿病」など、明確な診断名がある病気に対して、それに対応する漢方薬を選びます。医学的なラベル(病名)に基づいて治療を行うため、誰に対しても同じような処方がされやすいという特徴があります。診断が明確な場合は治療方針を立てやすく、西洋医学との併用がしやすいのが長所です。一方同じ病名でも、体質や症状が異なる人に同じ治療をするため、効果が不十分な場合があります。
<方証相対>
「方(処方)」と「証(体の状態・証候)」が対応していることを意味します。証とは「寒証」「虚証」「実証」「熱証」などの体質・病状・症状などの総合的な状態のことです。「方証相対」とはある証に対して、最も適した処方(方剤)があるという考えで、証を診て処方を決めます。患者の個別性を重視し、同じ病名でも、人によって違う処方が選ばれます。しかし、証を正しく判断するには、熟練した診察技術が必要で、一般的な診断(西洋医学的な病名)とは別の知識体系が必要となります。
<弁証論治>
「証を弁じ(判断し)、論じて治療を決定する」という、中医学の中核をなす治療理論です。
4つのプロセスが存在します。
弁証(べんしょう):診察や問診を通して、患者の「証(体の状態)」を分析・判断します。八綱弁証(陰陽、表裏、寒熱、虚実)や、臓腑弁証、気血津液弁証などの理論が用いられます。
立法(りっぽう):弁証の結果に基づいて、治療の方向性を決めます。例として「補気(気を補う)」「清熱(熱を冷ます)」「理血(血の巡りをよくする)」などがあります。
処方(しょほう):具体的な漢方薬を決定します。
加減(かげん):処方を患者の状態に合わせて加減します(生薬を加えたり、減らしたり)。
個別対応力が非常に高く、理論的に症状の変化に柔軟に対応できます。しかし、高度な理論と経験が必要で、医師や漢方家の力量に大きく依存します。
(歯科で保険適応の漢方薬)
実際に歯科医院で保険で処方することが認められている薬剤は以下の13種類となります。
立効散:抜歯後の疼痛、歯痛
白虎加人参湯、五苓散:口渇
黄連湯、半夏瀉心湯、茵ちん蒿湯、平胃散: 口内炎
排膿散及湯 : 患部が発赤、腫脹、疼痛を伴った化膿性病変
葛根湯:上半身の神経痛
芍薬甘草湯:急激に起こる筋肉の痙攣を伴う疼痛、筋肉・関節痛
補中益気湯:病後の体力補強
十全大補湯:病後の体力低下
桂枝加朮附湯:神経痛
(当院での漢方薬の処方について)
口臭に関連する事の多い、口腔乾燥症の患者に対して、処方されることがある薬剤をリストにしてみると
・虚証(体が弱い人)向き:麦門冬湯、牛車腎気丸、八味地黄丸
・中間証向き:五苓散
・実証(体が強い人)向き:白虎加人参湯
となります。
私は愛知学院大学に勤務していた時は、麦門冬湯と白虎加人参湯、現在は保険適応である五苓散と白虎加人参湯を処方しております。
麦門冬湯は保険適用外ですがSjögren症候群の口腔乾燥症への有効性が報告されています。
白虎加人参湯は薬剤性口腔乾燥症などでも活躍します。
五苓散は乾燥症状の改善だけでなく余分な水分を排出する効能もあり、浮腫、二日酔い、頭痛などにも効果が期待できます。
問診時に証についてのアンケートを行い、その結果によって処方を行っています。
処方する際には、まず14日分処方して、様子を見ます。効能が適切でも証(しょう)が異なる場合は不適切な処方となり、その結果もたらされる作用を誤治(ごち)といいます。また、漢方薬の多くは一定期間の服用継続が基本となり、効果発現前には一時的な症状悪化や予期しない症状がみられることがあり、これを瞑眩(めんげん)といいます。この2つの症状がみられていないことを確認して、処方量を調整していきます。
服用方法は医薬品添付文書に記載されていますが、多くの漢方薬でもっとも好ましいのはエキス製剤を100mL程度の熱湯に溶かしたのち、人肌くらいに冷ましてから飲む方法です。生薬を煎じた状態に近いことに加え、口腔粘膜からの吸収も計算に入れることができるため薬効が効率的に発揮されやすいです。服用タイミングは多くの漢方薬で1日3回、食前あるいは食間となっています。漢方薬の配合生薬は食事の影響を受けやすく、食後服用では吸収効率が低下し薬効が十分に得られにくいとされています。
どうだったでしょうか?歯医者で漢方薬を処方している歯科医院はまだまだ多くはないと思います。しかし、近年歯科大学でも漢方薬の講義が行われるようになり、歯科国家試験でも出題されるようになってきてます。漢方薬を取り入れている歯科医院も徐々に増えているそうです。今後、さらに発展していく分野かと思われます。口臭治療と漢方についても、先日参加した日本口臭学会のシンポジウムで大阪歯科大学の王宝禮先生が講演されていたように徐々に話題になってきています。現在、当院では2種類の漢方薬しか処方しておりませんが、もっと知識と経験を積んでさらに多くの漢方薬を処方していければと考えております。